492話 驕ったプライドを圧し折りに来ているのではと疑う
僕の立ち位置である【天位】という称号に配慮してくれたのか倉庫に入ると鍵をかけ二人きりで模擬戦が始まった。
しかし、強くなったと思うのが錯覚なのではと思うくらい師匠が遠い。ただほんの僅かに僕より早く攻撃を繰り出し、ほんの僅かに早く回避行動をとる。僕の攻撃は掠りもせずは逆に二限の間に木刀で数えきれないほど打ち据えられた。
うちでの鍛錬に使う模造武器は実際に使う武器と同じ形状と重量バランスをしており刃を潰しさらに念を入れて【高位威力減衰】によって思ったほどダメージは受けない仕様である。これは寸止めを意識すると攻撃する際に変な癖がつくのを防止する為と怪我をしにくくさせる為である。
「正直言って細やかな自信が木っ端微塵に砕け散りそうなんですが…………」
思わずそう愚痴ってしまっても許されるだろう。それに対しては師匠はこう返してくる。
「そりゃ、対戦の度にこっちもギアを上げてるからな。だが、正直な感想としては【天位】に相応しいだけの実力はあるし対人戦に限れば大陸でも上から数えた方が早いだろう」
一瞬期待してしまったがその上からの順位って何番目なのだろうか? 師匠はお世辞は言わない。ここはリップサービスでも【剣聖】に匹敵するとか言って欲しい。
その後は半刻ほど良かった点と改善点の講釈となった。そこで提案があったのが他流派の技の習得であった。他流派と対峙したときの助けにもなるし対戦相手に選択肢を増やす事にもつながり悪くないだろう。
確かに師匠は様々な流派を使いこなす変人な事もあり行動が読めない。素人が能力任せで適当な攻撃の組み立てを行うのとは一線を画す。実戦で使う時期はともかく少し試してみるかという気になった。
▲△▲△▲△▲△▲△▲
「えぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
師匠が【時空倉庫】から引っ張り出してきて前庭に並べたのは小型箱式魔導騎士輸送騎に属する大きさ的には全長3サート、幅0.75サート、高さ1サートある魔導歩騎運搬用として用意された魔導輸送騎だ。イメージ的にはタイヤのない10トンロング車が近い。それが10騎。
実は安易な戦時徴発で地方への輸送網に穴が開いたため師匠が然るべきお偉方に掛け合って用意したという。積載量は二頭立て四輪荷馬車換算で5から6台分、重量にして最大15.6グランほどで簡易居住区付きで最大五人乗騎可能。
「本当に良いんですか?」
「付与魔術の研究成果と引き換えなら十分釣り合いが取れるから気にするな」
正直言うと運搬業務担当の若い冒険者が暇を持て余していたのでこれは大助かりである。
因みにうち以外がこんな装備を大量に抱えることは出来ない。こいつらとにかく維持費が高い。僕らの共同体は特例で維持費を魔導機器組合が無償にしてくれているおかげなのだ。
「こいつの注意点は――――」
前庭で訓練していた若手がざわつく中で師匠が使用について説明を始める。性能は以前使っていた中型平台式魔導騎士輸送騎より結構落ちる。積載量が半分ほどで速度も満載最大速度も5.3ノードと半分以下である。居住空間も簡易ベッドと便所しかない。装甲も薄いので熊くらいの獣とぶつかると装甲が凹むそうだ。また背が高く重心がやや高いので急旋回などの無理が利かない。
取りあえず班決めして仕事を再開しよう。そのあたりはメイザン司教に丸投げで大丈夫だろう。
あ、そうだ。師匠に相談に乗って貰いたいことがあったんだ。
「師匠。実はきわめて個人的な相談があるのですが、お時間の程は?」
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