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52話 独断専行は怪我の元

 居間(リビング)で寛いでいたその人物が突然立ち上がる。見つかったのかと思ったがどうやら違ったようだ。何時から居たのか、何もないはずの場所に一人の老人が立っていた。

「尊師。無事に()()を捕縛しました」

 立ち上がった人物は声音から女性のようだ。聖女? 何の話だろうか?

「証はあったのだな?」

 老人の問いにその女性は床に転がされている少女のスカート捲ったあと指を差し「ここに証が」と回答した。こちらからは残念だけどその証とやらは見えない。

「間違いない。貴重な実験用の生体サンプルだ。慎重に運べ」

 尊師と呼ばれた老人が言うだけ言うと姿を消した。魔術とか使った形跡はないから単なる立体映像?


「やれやれこのサイズを運ぶのも一苦労なんだけどねぇ。バラす事もできないし命令するだけの人はこれだから困るのよね」

 ソファーに腰掛けテーブルにあった琥珀色の液体の入ったグラスを持ち上げる。



「ねぇ。(いつき)くん。なんか玄関側が騒がしくない?」

 和花(のどか)に言われて気が付いた。確かになんか騒がしい。内容は聞き取れないが口論していたのが程なくして剣戟が聞こえ始めた。


 暢気にグラスを掲げていた女性は駆け込んできた黒ずくめの男に指示をだしているがココからでは聞き取りにくい。迎撃を命じているっぽい。駆け込んできた男が慌てて部屋を出て行き、また女性一人となった。


「チャンスじゃない?」

 和花(のどか)がそう聞いて確かめてきたが、ココまで来たものの未だに迷っていた。この件に首を突っ込んでもいいのだろうか? 普段の僕なら間違いなく和花(のどか)をなだめて衛兵(セントリー)に知らせに行っているはずだ。まさかとは思うけど…………。偶然とはいえ凶悪犯のマルコー一党(パーティー)を討伐したことで周囲が自分を畏怖するような雰囲気にラリってるのではないだろうか?

 相手の実力も判らず慢心しして自分ならいけると思い込んでいないだろうか?



 意を決して和花(のどか)手信号(ハンドサイン)で合図を出して居間(リビング)に飛び込むと同時に片手半剣(バスタードソード)を抜く。

「誰!」

 物音でこちらに気が付いた人物はすぐに呪句(タンスラ)を紡ぎ右手が術式(グラニ)を宙に描く。


綴る(コンポーズ)創成(クリエ)第一階梯(ファルク)攻の位(アェクス)。————」


 間違いなくあの術式(グラニ)呪句(タンスラ)は【魔法の矢(エネルギーボルト)】の魔術だ。誘導性の高い魔術だけど必中ではない。師匠に言わせれば気合で避けるか根性で切り払うか、それが無理なら気合で撥ね退け(レジスト)ろとのことだ。


 宙に二本の光輝く魔法の矢が出現する。


「まずい!」


 そう呟いた瞬間に後ろから押されて平衝(バランス)を崩すがギリギリで立て直す。

 その横を魔法の矢が通り過ぎ僕の元居た場所の床に一本が突き刺さりもう一本は————。


 和花(のどか)の苦悶の声と倒れる音が聞こえた。

 どうやら和花(のどか)がとっさに体当たりしたお陰で僕は辛うじてかわせた。振り返って負傷具合を確認したい衝動に駆られたけど、それでは和花(のどか)の行為を無にする事となる。


 魔術師(メイジ)との距離は1サート(約4m)と僕の間合いではあるが…………。

 駆け出すと同時に片手半剣(バスタードソード)を腰溜めにし、これが避けられると次はないという思いを乗せて右片手平突きを放つ。


 だが僅かに遅かったのか魔術師(メイジ)は右手を突き出している。

 そこに収束する魔力(マーナ)を感じた。


 呪句(タンスラ)呪印(タルムー)術式(グラニ)もないって事は無詠唱で魔力(マーナ)の塊を放つだけの【魔力撃(ブラスター)】しかない。

 それは刹那の判断だった。

 回避する間はない。先に突きが決まると信じて突っ込む

「根性ぉぉぉっ!!」

 気合を入れるためにそう叫ぶ。師匠に魔術の抵抗(レジスト)のコツを聞いたときの回答が「気合(根性)だ」だったのだ。


 魔力(マーナ)の塊がぶち当たった感触と女性の腹に切っ先が吸い込まれるように突き刺さり肉を割く嫌な感触がほぼ同時だった。


 だが切っ先は本来の狙った位置を大幅にズレていた。【魔力撃(ブラスター)】を抵抗(レジスト)したもののその威力で僕の体の位置がズレてしまったためだ。

 ただ突進する僕の勢い自体は相殺できなかったようで、ほぼ体当たりに近く形でふたりしてもつれるように転倒する。


 一瞬意識が飛んだように思えて瞬時に現状を確認する。転倒時に片手半剣(バスタードソード)ほうったのか右手には何もない。急いで腰にある予備の小剣(ショートソード)を抜きつつ起き上がろうとしたところに衝撃が襲ってきて大きく吹き飛ばされた。激しい痛みに顔をしかめつつ見上げると脇腹に片手半剣(バスタードソード)を深々と突き刺したままの魔術師(メイジ)がヨロヨロと立ち上がるのが見えた。


「このガキ……やってくれたね……」

 脇腹からかなりの出血をしているようでフラフラしている。

 立て続けにまるで速射砲のように連続して衝撃が僕を襲う。怒りに任せて【魔力撃(ブラスター)】を連打してるんだろう。先方も激痛と出血で魔力(マーナ)を収束しきれないのか威力は低いが、衝撃であちこちに転がされる。激しい痛みで既に身体が言う事を聞かない。意識も飛びそうになっている。

 和花(のどか)の事が気になり頭を動かすと視界の端に倒れているのが見えるが生死はわからない。


 怒りに任せて連打していた【魔力撃(ブラスター)】が止む。

 薄れいく意識で魔術師(メイジ)を見ると、

綴る(コンポーズ)八大(エルム)第四階梯(ギデク)攻の位(アェクス)。————」

 なにやら魔術の準備に入っている。頭上に真っ赤に燃え盛る火球が現れる。

火球(ファイアボール)】の魔術で爆殺かー。薄れいく意識のなかでそんな事を思っている。


 そして意識が途切れる直前に見た光景は、銀閃が走り、魔術師(メイジ)の首が転がり落ちる姿だった。



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