489話 迷宮攻略に向けて②
翌日、東方の難民キャンプへと送る面子の選抜を行った。希望者が多すぎたのである。特に一度は僕らと袂を別って中原西部域にある別次元から来た日本人らが築いた日本皇国に身を寄せたものの生活水準が低すぎて肌に合わなかったとかで出戻ってきた面子である。
僕らのいた世界は21世紀前半で始まった核戦争が始まり泥沼の小競り合いにもつれ込み平和が来たと思えば23世紀初頭から始まった第四次大戦で一気に資源も技術レベルも後退した。
それでも始まりの十家と呼ばれる異界から流れて来た超越者らによって国内の秩序が作り替えられ核戦争を回避し辛うじて21世紀前期程度の技術は維持していた。
その生活レベルに慣れきっていた彼らからすると明治末期から大正時代レベルである日本皇国はでの生活はかなりストレスがたまったようだ。
どの面下げてという意見も出たものの人手が欲しかったこともあり彼らを受け入れた。そして彼らがやたらと派遣に食いつく理由がここで結婚相手を見つければそれを理由に危険度の少ない仕事にありつけるのではと思っているのである。
不満が蓄積して暴走されても困るので一定の譲歩とし出戻り組から小隊規模を選出するように指示したのである。それで揉めているのだ。
因みに最初から残った面子の方も予定通り20代を中心に小隊規模の面子を派遣する。派遣先はかつての仲間である戦の神の神官戦士たる地霊族のゲオルグがいる難民キャンプに派遣する予定である。
他の難民キャンプは怖くて派遣できない。彼らからすれば武装した人間が大勢やってきて食料を提供し防衛を担うと言っても会話もほとんど成立しないし恐らく寝込みを襲われ身ぐるみ剥がされるのがポチである。僕は彼らの民度に過大な期待はしていない。
半刻ほど揉めた後に何とか小隊規模の面子の選出したようなので派遣の目的を告げ事前に用意していた[転移門の絨毯]でゲオルグの待つ地へと移動する。
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「待たせたね」
「予定より人数が多いように思えるのじゃが?」
「選抜で揉めてしまってね。その分だけ糧食も多く提供するので勘弁して欲しい」
「分かった。既に代表者には話を通してある。こっちじゃ」
挨拶もそこそこゲオルグに連れられて大型天幕へとやってきた。同行する真っ青な全身甲冑を纏った青の勇者は寡黙なのかほとんど会話しない。一度だけ眉庇越しに礼を言われた際に聞き覚えのある声だった気がしたのだけどどこで聞いた声だったのか思い出せなかった。
「――――。以上がこちらの条件です」
ゲオルグらが守るこの女性と子供ばかりの難民キャンプの代表は五人の妙齢の女性らである。彼女らはそこそこの規模の商家のご婦人だったようで知識もあり僕らの提案をきちんと理解しているようで代わる代わる質問をしてきた。それらにきちんと回答した結果は契約の成立である。
もっとも信用を置いているゲオルグの口添えだけでは流石にここまでうまくいかなかった。やはり社会的信用にかけては審議官という職は素晴らしい。アルマに立ち会ってもらい彼女の口から審議官立ち合いの正式な交渉であると告げてもらったのである。
こちらの条件は未来ある若く優秀な人材を引き抜く事と若くて結婚適齢期の男性陣の婚活である。大して彼女らの要求は食料や生活物資の援助と警護である。
彼女らはこれから公用交易語を習得しつつ難民を西へと移動させ中原の何処かで落ち着かせることである。あわよくば例の島へと連れ帰り適性または経験のある職に就いてもらいたいとも考えている。
その後は四半刻程かけて条文を二通用意し署名する。最後にアルマが宣言する。
「法の神の御名のもとに、その代理として命ずる。互いに条約を破ること能わず。【誓約】」
それは奇跡の【使命】によく似たもので個人ではなく書面に署名したものすべてが対象となる。
署名した者は僕、ゲオルグ、青の勇者、派遣グループの隊長格二名、難民の代表五名である。
無事に締結したので僕らは糧食を満載した二頭立て四輪荷馬車20台と牽引する輓馬が四十頭を提供する。
引き換えに12歳から14歳の本来であれば成人してから就くべき職業の適性訓練を始めている年齢の子らから健康な60名を引き取る。
この世界だと成人までに適性訓練が終わらない落ちこぼれは確実に冒険者行きである。そしてそういう子は数年で大半は消えていく。
ゲオルグに別れの挨拶をし彼らを率いて[転移門の絨毯]で島へと移動する。
面倒事は終わりだ!
次はようやく迷宮攻略だ!
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罪(積み)を重ねまくって辛い。




