487話 予想の範疇ではあったけど悪い話と…………
「では、こちら側からの報告ね」
和花はそう口にするとこれまでの事を順を追って話し始めた。
シュトルムが政治的後ろ盾を得て僕らと袂を別ったという事。その際に共同体の装備の大半を国軍発行の戦時徴発令を以て接収していったこと。ただし技術契約奴隷には手をつけなかった事。例の島関連は漏らしていないかった事。
他には若い女性冒険者が男所帯である共同体の稼いでいる若手を狙って共同体加入にしつこい事などをやや愚痴も混じっていたり脱線するのを隣のアルマが適切にフォローしつつの報告であった。
話の内容より先に思った事は、君たち妙に連携取れてるなぁであった。
「…………なるほどね」
そんな予感はしていた。シュトルムは冒険者として登録はしているが貴族という枠から抜けられない印象があった。ただ半森霊族のセシリーと添い遂げるのが難しいという理由で一族を捨てる気ではいたようだけど、世俗騎士でもいいから貴族社会に残りたいという欲は見えていた。
彼としては僕が叙爵をしその配下の世俗騎士あたりに落ち着きたいようではあったようだけども僕には国に仕えるという気概がない。後ろ盾ともいえる人物の再三の勧誘も断った。
そして僕の後ろ盾になっていた人物はシュトルムに目をつけたんだろう。一介の伯爵の嫡男如きが国軍の令状など持ち出せないので恐らく男爵位あたりを餌としてチラつかせてうちの共同体を売るように誘導したのだろう。
ただ彼の良心なのか打算なのか技術契約奴隷それと例の島関連のモノは秘匿したようではあった。
恐らく彼の中では恩を売ったつもりなのだろう。保身かな?
「でも黙っていても伯爵位だったのに、男爵位で満足したのかしら?」
「たぶん新興貴族で男爵位なら煩い親戚筋から結婚について文句が出てこないからだと思うよ。それに後ろ盾が王太子だしね」
和花の疑問にアルマが答えてくれた。僕も同じことを考えていた。説明助かる。
「でもさ。あいつの名声ってうちの共同体に居ればこそ得られたものじゃないの」
和花的には納得がいかないようでご立腹である。彼女の気持ちは理解できるけどね。
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「話には聞いていたとはいえ多種多様ねぇ」
例の島の大地に降り立った和花が開口一番そう口にした。
朝食後に和花とアルマを同伴して例の島にやってきた。いつまでも瑞穂を放置という訳にもいかなかったからね。ちょっと機嫌が悪そうなのは見なかったことにしよう。
これから闇森霊族の氏族らをこの島の闇森霊族の氏族と引き合わせる。その間に和花とアルマには残った人たちの今後について相談にすることになる。
そう思っていた時だ。好都合なことにこの島に住む闇森霊族のルフェーブル氏族のマティアス氏長がやってきた。以前会った時は無表情のような人という印象であったけど今日は笑みを浮かべている。彼らは長く変化の乏しい生活からか感情の揺らぎが乏しくなっており新しく若い同族を迎え入れる事に久方ぶりに心躍っているのである。
連れて来た闇森霊族は三氏族おり当初より多い事とここでの生活が合わないようなら森の中で独自の集落を形成する旨を話し合う。その際に島は二万年外界から隔離されている事。生態系が他と異なる事。迷宮産の怪物などが野生化し世代交代をしている事も説明する。
普通の動物は居ないのである。それに関しては僕らがある程度は怪物の間引きを行った後に動物を連れてこようかとも考えているとも伝えた。生態系を破壊する?知らん。
闇森霊族らは取りあえずお試しでルフェーブル氏族の集落で生活する事になった。もっと揉めるかと危惧していたけど杞憂であった。それが表情に出たのだろうか去り際にアドリアンがこう言った。
「我々にだって上位者を敬う心根もあるさ」
僕は去り行くアドリアンに声をかけた。
「落ち着いたら手を貸して欲しい」
それに対してアドリアンは振り返りもせず手を上げひらひらと振るだけであった。
たぶん了解したという事だろう。
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