表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
526/678

482話 待機という名の休暇④

分割しようかと思ったけど一話でお届け。

 いつもの習慣で早朝に目が覚めると中庭まで行き井戸水で顔を洗い完全に眠気を飛ばす。柔軟と軽い走り込みを行った後で素振りを行いひと汗かいた後に【洗濯(クリーニング)】で身綺麗にして食堂へ。

 本日の朝食として玉蜀黍粉(ズウィーベルミール)を粥状に煮た玉蜀黍粉の粥(ピューロゥ)と呼ばれる乳酪(デアリー)粉乾酪(ファリーナチーズ)で味付けした主食と扁平豆(レンティル)トマト(パーラディクソム)二枚貝(コンチイリーア)煮物(コクター)に葉物野菜であった。


 玉蜀黍(とうもろこし)料理は南方(アサド)でも食べたこともありそれほど抵抗はなかった。扁平豆(レンズ豆)二枚貝(今回はアサリ)蕃茄(とまと)の煮物は二枚貝(コンチイリーア)が旬を過ぎている感じであった。扁平豆(レンティル)は煮崩れていて全体にとろみがついており蕃茄(パーラディクソム)の酸味に香辛料と相まってそれなりに食欲を刺激した。


 その後は組合(ギルド)の建屋を出て町をぶらぶらとしたかったけどこんな小さな町では数日も滞在すれば流石に見るべきところはなくなってしまった。とりあえず露店で薄めた葡萄酒(ワイン)を購入し水筒に詰めてもらう。

  当てもなく歩き始めて八半刻(一五分)ほど経過しただろうか。瑞穂(みずほ)と「どうする?」と尋ねてくる。

「裏通りでも見てみよう」


 そうして雑然とした裏通りを歩き始める事半刻(一時間)ほどたったころだろうか。どこからかは不明であるが不快な視線を感じた。

 その瞬間、隣を歩いていた瑞穂(みずほ)の右手が閃く。指先から伸びる鋼刃糸(フェラム・スレッド)が太陽光を反射して僅かに煌めく。

 ほぼ同時に達磨(注:比喩的表現)が屋根から転がり落ちてくる。

 そして止める間もなく[魔法の鞄(ホールディングバッグ)]から何かを取り出し達磨(注:比喩的表現)の口に捻じ込む。


 呆れるほど見事な早業であった。


密偵(スニーカー)みたいだね。どこの手の者だろうか?」

 隣で瑞穂(みずほ)が【軽癒(リクト・ヒール)】を唱えて止血を行っているを横目に観察する。密偵に多い平凡すぎて特徴がない容姿に服装は現地人に偽装しているのか東方では標準的な灰色のシャツとベストにカーゴパンツっぽいズボンに布靴(ヂュック)だ。明るい色の染色は費用が高いので灰色や茶系とか暗系の色が多い。

 密偵は多くが捕縛を嫌って自殺する手段を講じる可能性がありそれを防ぐために咄嗟に口に布を口に突っ込んだのだろう。笹縁(レース)が見えなければ恐らく無視しただろう。


 程なくして視線に気が付いたのか瑞穂(みずほ)は「内緒」と呟くと視線を逸らされた。


 余計に気になる…………。


 力仕事は苦手な瑞穂(みずほ)に代わり僕が達磨(注:比喩的表現)を建物の陰に引き摺っていった。


「さて、情報を集めるか。正直言えば精神魔術(チャーム)は専門じゃないので和花(のどか)に頼みたいけど居ないものだから仕方ない」

 そう呟いて詠唱に入る。

綴る(コンポーズ)精神(インテンス)第八階梯(フェブル)探の位(ランサイチ)強行(ファニー)記憶(キムフン)精査(イレッティ)吸出(イパ)深度(イジヌル)発動(ヴァルツ)、【記憶抽出メモリア・レトリーバル】」

 詠唱の完成と共に僕の右手は鈍い輝きを放つ。これは部分的に物質界から切り離された状態となる。

 鈍く輝く右手を密偵の頭部に接触させる。鈍く輝く指がずぶずぶと頭部に沈んでいく。

 それと共に密偵の表層の記憶が流れ込んでくる。しかし上っ面に飼い主の情報は見られない。もっと奥深くまで潜らないと駄目だろうと判断しさらに指をゆっくり進めるが程なくして先に進まなくなる。

 この魔術の効果時間中の僕の指は物質の影響は受けない。という事は魔術的に抵抗(レジスト)を試みられているのだろうか?

 更に力を入れて押し込もうとするが阻まれてしまう。

 そしてここで偶然男の頭部から髪がごっそりと抜け落ちる。カツラだった。密偵の頭部はそれはスキンヘッドであり頭部を一周するような大きな傷があるのだった。


「この傷…………」

 明らかに外科手術の跡だ。それを見て思い出した。


 密偵の中には魔術で記憶の収奪を阻止するために外科手術で魔術を阻害する(レッド)の板を埋め込むという話だ。情報の出所はアルマなので間違いないだろう。

 試しに頭部を叩いてみると明らかに硬い。素人の拷問では恐らく吐かないだろう。それどころか口から布を取り出した瞬間に自害しそうである。


 他に精神魔術(チャーム)で良いものはなかっただろうか?

 そう考えていると瑞穂(みずほ)がキョロキョロと周囲を見回しており程なくして何かを見つけたのかそちらへと走っていった。


 そして戻ってきたときにはオリーブっぽい植物が植えられた鉢植えを抱えていた。

 植木を路地に置くと瞑目する。

「優しき森乙女(ドリアード)よ。この者の心を縛り、わたしの友達にして」

 そして瑞穂(みずほ)精霊魔法(バイムマジカ)をかけた。


 密偵の意識に瑞穂(みずほ)の呪文の声が染み込んでいく。男はそれに抗う気配も見せず呪文の影響を受けてしまった。


「気分はどう?」

 普段あまり表情(かお)を変えない瑞穂(みずほ)が穏やかな表情で密偵に話しかけたのだ。それだけで驚きである。

「あまり良くないな。俺はどうしたんだ?」

 密偵は自分がどういった状態になっているか理解できていないようだ。

「あなたは突然襲われて負傷してしまったのよ。それより貴方はどこのどなたかな?」

 襲った人間が顔色変えずにそんな問いをする。そしてやや唐突な質問な気がするけど密偵は疑問に思事なく自分が数日前に中原(セントルム)から仕事でやってきたと言った。


 瑞穂(みずほ)と密偵のやり取りは一限(五分)ほど続きある程度は素性が絞れた。瑞穂(みずほ)もこれ以上は無理と判断すると立ち上がる。

「どこへ行くんだい?」

 密偵は不安そうに瑞穂(みずほ)に問う。

「人を呼んでくるね」

 そう言って僕にも立つように促すと路地へと戻る。そして実際に衛兵隊(センティア)を呼び密偵の事を伝えると組合(ギルド)へと戻った。


 部屋に戻り密偵から聞き出した情報から飼い主を絞り込む。僕らの行動が筒抜けである。その事から飼い主は二つに絞られる。

 ひとつは商人組合(マークアンテギルド)の幹部にして商業の神(マネイナ)聖職者(クレリック)でもあるメイザン高司教(ハイビショップ)だ。

 だが、彼は自己の利益が侵されない限りは味方であろうとする。瑞穂(みずほ)が問答無用で攻撃したことからもうひとつの存在が飼い主であろうと思う。僕らがここにいる事は共同体(クラン)の面子でもごく一部しかいないからだ。


 そしてその飼い主に情報を届けている存在はやはり彼だろうな…………。


 そうなると行動が予想できる。僕は【伝達(ユーバートラガング)】の魔術で指示を送った。


ブックマーク、評価、感想、誤字報告などありがとうございます。

数話ほど幕間が入ります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ