481話 待機という名の休暇③
終末戦争の最新版報告書を読みふけっていく…………。
読んでいくうちに非常にまずい事態ではないのかと思う事が書かれていた。それは、初期の獣型による偵察部隊との戦闘に関してだ。
奴らの任務は攻め込む世界の戦闘能力の調査である。そこで用いられた攻撃手段と防御手段を元に性能を平均化し大量に投入してくる。
問題は僕らの故郷からやってきた防衛軍である。彼らは重火器や戦闘車両で何度も撃退している。これを水準に週末の軍勢の本隊が襲来してくると完全に詰む。
もう一つの問題が赤の帝国だ。小銃や魔導騎士も本来のこの世界の技術水準では量産化は難しいものだ。あれは自動工場で量産したものである。ハーン曰く製品品質が均一し過ぎとの事だ。この世界の考え方は生産性を上げたければ人を増やせば良かろう。なにせ人は余っているんだからである。かつてのローマ帝国とかがそんな感じだっとそうだけど…………。
産業革命が起こって大量生産に移行しない理由がこれだ。そして異世界ものの創作でテンプレの娯楽品が庶民に普及しない理由でもある。
これらのお陰で今回の終末戦争は自分らより格上の大軍を相手にすることになる。強力な個体がいち戦場で無双して勝利を収めても全体でみると勝てないのは間違いない。やはり戦いは数なのである。
ただ過去の歴史を紐解いても飛行能力と水だけは苦手なようで幾度も攻めてきてもそれだけは改善されなかった。それが数少ない救いだろうか。
うん。やはり例の島の開発を早めよう。とくに港湾領都ルードの開発を急がせよう。それがいい。
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町に着いて四日が経過した。朝起きると鍛錬し昼間は瑞穂とぶらぶらと町を散策し夜は掃除屋と夕飯を共にし情報交換を行う。二つ名を持つ冒険者だけあって彼らは博識だ。本来冒険者というのは彼らのような存在だったはずなんだけど使い勝手の良さと人余りからかいつの間にか単なる日雇い労働者みたいな存在になってしまったからなぁ。
ところで彼ら掃除屋の二つ名は二種類の意味があるのだとか。ひとつは破棄宣言された遺跡からすら何らかの成果を持ち込んでくる優秀さだ。ふたつめは安全になった場所からゴミ漁りをしてくるという誹謗中傷だ。結果を出した者に対する嫉妬だね。
ここで掃除屋が年齢を理由にそろそろ半引退を考えていると口にした。30歳を超えると急激に衰えを感じるという人はいる。多くの冒険者も35歳が上限だという。それ以上は辞め時を誤ると寝台の上では死ねない。
僕はそこでこんな話を振った。
「遺跡探索の技術って自分で経験して覚えろって感じで結構育たないんですよねぇ」
うちの共同体も斥候は数多くいる。防衛軍の生き残りのオジサンらだ。ある程度なら迷宮や遺跡でも通じるとは思うけど専門家と呼ぶには不安を覚える。
瑞穂は優秀だけど人に技術を教えるのがとにかく下手だ。
彼らみたいな本職の指導が欲しいなと考えていた。
「その娘はどうなんだ?」
斥候のケインさんが瑞穂を見てそう返す。当の彼女は自身に注目が集まっても黙々と食事を進めている。
「瑞穂ですか? 文句はないのですが、共同体としてもう数人ほど専門家が欲しいんですよね」
そう答えると掃除屋の二人は沈黙する。酒場の喧騒だけが響く中どれほど経過しただろうか戦士のルースが口を開いた。
「今はいくつか盗掘の候補地がある。気が向いたら手を貸してやっても良いぜ」
確約は出来なかったけど前向きに検討はしてくれるようだ。そこで[魔法の鞄]から名刺代わりの魔術師の署名が施された木札を取り出す。名刺のようなものだ。
それをテーブルの上に置く。
「気が向いたら十字路都市テントスの共同体事務所まで来てください。それを見せて名乗っていただければ話が通じるようにしておきます」
「こんな稼業だから確実とは言わねーけど気が向いたら訪ねるよ」
戦士のルースがそう言って木札を受け取った。
ブックマーク、評価、感想、誤字報告などありがとうございます。
もう一話書いた後に幕間がいくつか挟んで本編に戻ります。




