480話 待機という名の休暇②
案内されたテーブルにはもう一人同じくらいの年嵩の男が居た。こちらはやや細身であり戦士二人の組み合わせとは考えにくいし恐らくは斥候であろうか。
席に着くと適当にいくつか品物を追加すると、まずは俺らからと自己紹介を始めた。僕らに声をかけて来た男はルース。もう一人の男をケインと言う。掃除屋の二つ名を持つ二人一組の銅等級の冒険者である。掃除屋の二つ名は盗掘完了宣言が出された枯れた遺跡から新たな金目の物を発見してくることからいつの間にかそう呼ばれるようになったという。
次は僕らである。嘘をつく必要もない場面なので認識票を出し名乗る。この世界、太古の魔法の工芸品のを用いて作られる認識票は偽装不可能なのもあって特に疑われることもなかった。若くて平服紛いの装備に光剣を提げている男なんてほとんどいない。それでピンときたらしい。お近づきになるチャンスと思って声をかけたとの事である。
因みに僕と瑞穂の関係は又従妹であるが妹として紹介してある。
互いに自己紹介が終わったあたりで注文が運ばれてきた。料金は料理と引き換えであった。乾杯を交わし情報収集を始める。麦酒が出されたけど温いし微炭酸だし味も何というか薬っぽい? それもそのはずで風味つけに薬草などを用いてるからだ。正直僕には合わない。とはいっても生水が飲めないこの世界では酒精の低めな麦酒は水の代わりだったりする。きちんとした上水道が完備してある十字路都市テントスに住み慣れると水の高さに驚く。
麦酒が小銀貨1枚に対して水は小銀貨5枚にもなる。
「なんだ。天下の竜殺し殿は酒は苦手か」
マズそうに麦酒を飲むの僕を見てルースが豪快に笑う。
「口に合わないだけですよ」
僕はそう嘯くと葡萄酒を注文する。まだこっちの方がマシである。
テーブルに並ぶ数々の料理は港で揚げた揚げた魚介の浅漬けや焼き物や揚げ物や炒め物が大皿に盛られている。追加で山盛りの種実類が出てくる。この辺りでは夕飯時は主食の麺麭やお米や麺類などは食べないらしい。
話は赤の帝国絡みの話が多い。うっかり領地に踏み込むと諜者として捕まるとの事だ。また赤の帝国に雇われていた餓狼の牙という傭兵共同体がどういう訳か指名手配となったという。そのせいかここらにも人狩りが結構ウロウロしているので注意しろと忠告を受ける。
餓狼の牙と言うと水鏡先輩の所属する共同体である。あの人は無事であろうか?
話は遺跡探索の件に移っていく。彼らもそろそろこの辺りの廃墟の探索は終了したとの事で次の目的地を模索していたようで僕らに盗掘の終わった遺跡はないかと尋ねて来た。おそらくコレが本命だろう。
数日前に潜った遺跡や文献で漁っただけの候補地などを上げつつ気が付けば一刻ほど経過していた。
「おや、妹さんはそろそろ眠そうだな。ならこれで解散するか」
そうケインに言われて横を見れば瑞穂がウトウトしていた。暫くおとなしいと思っていたら薄めた葡萄酒で酔ったようである。
ご馳走になったことに礼を述べ瑞穂を横抱きにして二階の部屋へと向かう。葡萄酒をかなり薄めて飲んでいた筈だけど意外に酒精に弱かったのだろうか?
いや、瑞穂は魔法で解毒できるはずだ。酒を嗜む習慣もないし何か意図があって離席するために酔っぱらったのだろうか?
寝台に横たえると詠唱を始める。
「綴る、拡大、第三階梯、快の位、活性、快気、毒性、霧散、発動。【毒癒】」
魔術は問題なく発動し瑞穂の体内から酒精を分解していく。
「ありがと」
程なくして酒精が抜けたようで礼を口にすると上体を起こす。
「何かあった?」
瑞穂の性格的にあの場では目を外して酔ったとは思えない。何か意図があったはずだ。
「監視されてた」
「誰に?」
「そこまでは判らない。でも嫌な感情の動きを感じた」
誰かが悪意を以って監視していたという事らしい。待ち人ではなさそうだ。人狩りが僕らに目をつけたかな?こう言っては何だが僕らは富裕層の坊ちゃんや嬢ちゃんに見られる。竜殺しの二つ名なんて頭上に表示されるわけではないので情報通でなければ名乗らなければ僕らだと分かるまい。
油断しなければ大丈夫だろうけど念のために扉を施錠しておき防犯魔術の【雷鎖網】を施しておく。
時間的に寝るには早すぎるので僕は先送りにしていた師匠から渡された終末戦争対策の報告書を読むことにした。
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