479話 待機という名の休暇①
陽も傾き始めてきたので宿の確保でもしようと冒険者組合の建物へとやってきた。ここでどこか安全な宿泊施設を紹介してもらおうかと思った為だ。
大きな両開きの扉を潜るとこれまで組合の建物で聞いたことがないような喧騒が飛び込んできた。これまで見た組合のようなお役所然とした構造とは大きく違っていた。
創作物でよく見た飲食スペースや各種売店や受付が同じ階層に併設されていたのだ。吹き抜け構造で二階以降は宿泊施設のようだ。恐らくだが狭い都市なのでならず者予備軍の冒険者を一箇所に隔離する事が目的であろう。
時間的にすでに酒を飲んで出来上がっている冒険者らを横目に手の空いている受付へと向かい宿屋を紹介して欲しいと問うと既に商人向けの西門側の牢獄亭と言うほどほどの質の宿が安全だと教えてもらう。ただしここ暫く外からの人の流入が多く満員の可能性があるとも指摘された。そして組合建屋の冒険者向けの宿泊施設であればひと部屋空きがあると言う。ただし個室は埋まっており二人部屋でよければとの事であった。
「それで良い?」
「うん」
同室を問うと迷うなことなく即答だった。料金は先払いでとの事で先に一週間分として大銀貨六枚を支払う。食事はここでとって欲しいとの事でそっちは別料金となるようだ。
鍵を受け取ると一旦周囲を見回し目的の物を見つける。依頼掲示板にどんな依頼があるか覗いてみる事にした。
「おっ、すごい」
思わず声が出てしまった。凄い依頼があったという意味ではない。薬草採取や討伐依頼があるのだ。
この規模の都市だから可能な依頼であろう。もっとも大半の薬草は十字路都市テントスであれば薬草園で栽培していて格安で手に入る。討伐も巡回業務で多くは駆逐されているので組合まで依頼が来ることは滅多にないだけなのだ。それに遠隔地でのトラブルは組合に依頼が来る前に終わっているパターンも多い。魔獣によって村が全滅とかね。
ようやくテンプレ的なものを拝んで気分が良くなった時だ。
「おい、ガキがこんな時間に仕事探しか?」
そう声をかけてきたのは歳のころは30前後くらいだろうか使い込んだ硬革鎧を纏った大柄の男であった。首から下げている認識票は銅等級を示していた。この規模の都市であれば最高位の冒険者であろう。
彼からすれば確かに一回り以上下の僕らはガキであろう。
「いえ、人と会う約束がありまして一週間ほど滞在する予定です。その間熟せる仕事があればいいなと思って覗いただけですよ」
一部嘘が混じっているが差しさわりはないだろうといった内容の回答を返しておく。
好奇心旺盛そうな目で男が僕らを交互に見比べるとこう切り出した。
「夕飯まだだろう? 奢ってやるからちょっと話を聞かせろよ」
腕試し的なテンプレを期待していたけど、よくよく考えたら気楽に回復魔法が使えないこの世界で身体が資本の彼らが無駄な戦闘をするわけもないかと思い至る。
瑞穂の方を見ると特に警戒心がないようで周囲をきょろきょろとみているだけだ。なら答えは決まった。
「ではご相伴に預かります」
そうして僕らは彼らの席へと連れていかれた。
ブックマーク、評価、感想、誤字報告などありがとうございます。
なんというか執筆習慣を取り戻そうと思って文字数を押さえて投稿しようとすると意外と文字数少なくね?ってなる現象。
落ち着いたら話数の統廃合とかした方が良いのだろうか?




