478話 港湾都市レルン
煉瓦造りの三階建ての同じような建築物が立ち並ぶ。屋根の色は一様に赤くやや勾配のきつい切妻屋根である。倉庫代わりの屋根部屋を設ける為であろうと思う。都市全体の規模は人口三千人程度の都市だと思ったほど大きい印象を受けないのは巨大都市である十字路都市テントスに住み慣れてしまったからだろうか?
まず市壁そのものが防壁として不安を覚えるものであった。高さ2サートほどの石詰みにモルタルを塗っただけであり地上部は厚みも0.75サートほどあるが上の方は0.5サートほどしかない。海から海水を引いた水堀も深さは判らないが幅が2.5サートしかなく対人を主眼に置いた防壁であればこれで充分であったかもしれないが、この世界には魔導騎士や魔導従士にとっては障害としては不安である。
昔の戦争様式ならこれでも十分だったのだろうけど、神聖プロレタリア帝国や赤の帝国によって戦争のルールが大幅に変わった今となっては赤の帝国の気が変わり南進すれば一日で陥落するであろう。
周囲を観察しながらやや粗い石畳を歩いていく。衛生観念はあまり行き届いていないようでそこかしこにごみが散乱している。また下水道はあれど排水処理施設が稚拙なのか吐きだされる排水はかなり臭い。
上水道は最低限施されているが水圧が低いので一階層の住人以外は毎日汲みに来なければなるまい。井戸は見つからない。恐らく海が近く掘っても塩分を含んだ水しか出てこなかったからだろう。
この都市が港湾都市の異名を持たなかったのは、ここが中規模の補給港程度という認識だったからであった。
係留施設もあまり大きくなく沿岸航路の中型のガレー船が数隻も停泊すれば一杯といった規模である。また水域施設もさほど余裕がない。その為に中原の商人らが扱う複層甲板大型帆船は緊急時以外は素通りしてしまう。ところが戦乱の特需で赤の帝国との境になるこの場は物資も人も集まっている。それと同時に金のある者は国外へと逃亡を行っている。船を必要としている者は多いのだ。
ただ庶民は住み慣れた土地を離れるとほぼ詰みなので逃げたいと思っても成る様になれと思っているのだろう。
港の方へと向かい眺めていると沖の方に中原の商人は十隻以上の複層甲板大型帆船船団が停泊しているのが見える。
怪物が跋扈するこの世界で5隻未満で貿易する間抜けは居ない。通常は損害二割までなら黒字になるように行動するからだ。
陸路の方が安全ではあるけど大量の物資を運ぶことに関しては船便の方が優れている。
現状は国境線が赤の帝国と接しているおり緊張感があっても不思議ではないのだけどあまり町の者からそう言う印象を受けない。
この世界のルールで互いの国境線は緩衝地帯を2.5サーグ設けているものの現在は戦争難民がその緩衝地帯を陣取っている。
問題はこの戦争難民である。彼らは赤の帝国の立場としては敵国の人間は刑の重さは違えど戦争犯罪人扱いの立場なのである。いまは国外かつ無法地域に居るので干渉しないというスタンスの為に生かされているに過ぎない。
ところが難民らがこの国に入り込めば戦争犯罪人を幇助したという名目を与えてしまうのでこの国の軍隊が国境線に出払っている。
治安は最低限の衛兵隊が担っているので軽く一刻ほど街中をうろついただけで十数件ほど軽犯罪を目撃した。僕らも二度ほどスリにあったがすべて瑞穂が撃退した。
取り合えず僕らは先方から接触してもらう為にこの都市に来たぞとアピールするために日中は都市内をうろついているのである。ふらふら歩いていて気が付いたことだが、これまで見た都市とは違いがあった。冒険者向けの店舗が見当たらないのである。
陽が落ちる前になんとかこの都市最大の大きさを誇る五階建ての建物の前へとやってきた。ここが冒険者組合の建物である。
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ちょっと連日の尻ぬぐい業務+暑さでやられました。




