476話 脱出②
上の階層に駆け上がると特に理由はないけど右回りで出口に向かう。後ろからドスドスと何者かが追いかけてきているのが聞こえる。
振り返りたいが速度を落としたくないのでとにかく走る。そして地下施設の最初のT字路まで戻ってきた。結局この前開きの両開き扉がなんだったのか調べる間もなく僕らは出口へと向かう。
歩幅の差か足音は徐々に詰めてきており3.75サートも離れてはいないだろう。足を緩めればすぐに詰められる距離である。
先行していた瑞穂が唐突に壁を蹴りつけるとそのまま走り去る。
結果はすぐに分かった。
正体不明の両開き扉が勢い良く開いたのである。怪物の叫びが響き渡る。
思わず足を止めて振り返ってしまった。僕の目に映ったのは両開き扉に挟まれて藻掻く怪物であった。扉はかなり肉厚でとても人力でどうこうできる代物ではない。怪物の不幸は続く。
本来の罠が起動したのだ。扉の奥には通路幅一杯の巨大なローラーがありそれが動き出したのだ。扉の幅がほど通路と同じだった理由はこれなのだろう。獲物を左右の通路に逃がさないという事か。という事は怪物を挟んで扉が完全に開ききっていない。場合はどうなるのか?
怪物の悲鳴がさらに大きくなるローラーが扉を押しのけているのだ。やがて扉が完全に開き挟まれていた怪物は扉と通路の角で真っ二つにされたのだ。
「あ、それどころじゃ」
ローラーは迫ってきている。僕らは慌てて最初に瑞穂が切裂いて開口した入り口に飛び込んだ。
地下施設の扉は固く閉じられており切裂いて無理やり侵入したのが功を奏したのか僕らは無事に逃げ切った。仕掛け的に扉を通常の手段で開閉していた場合は潰されていた可能性も高かった。
タイミングよく全員が扉とローラーの下の隙間に入れるとは思えなかったので瑞穂の御手柄である。
「しかし、よく仕掛けが分かったね」
「T字路の罠の定番だから」
一息ついて瑞穂に問う簡潔な回答が返ってきた。なるほど定番か。呼吸も落ち着き地上へ戻ろうと階段へ向かう時だった。ローラーが定位置に戻り扉が閉まると死んだと思った怪物がそこに立っていた。
ただし大きさはやや大柄な人間といったところである。こちらを見つめていたかと思うと雄叫びと共に走り始めた。
これは階段を上っている最中に追いつかれそうだと判断しこの広場で迎撃する事にした。扉にあけた穴から飛び出してくると最初の標的を瑞穂に定めたようで右腕を大きく振りかぶり――――。
振り下ろしたと瞬間には右腕が宙を舞っていた。紙一重で振り下ろしを避けた瞬間に[鋭い刃]で右腕を切り飛ばしたのである。一瞬のやり取りであったが今のは[飃雷剣術]の上伝技【飃眼飃刃】であった。正規の鍛錬はしていない筈なんだけど相変わらずのチートぶりであった。
怪物も痛みは感じるのか僅かに硬直を逃すはずもなく僕はそのわずかな合間に腰の光剣を抜くと飛び込むように刺突を繰り出す。
刺突は突進の勢いと相まって岩のような肌をものとせず喉元を貫いた。
[飃雷剣術]の上伝技【雷槍】である。
動きを止めた怪物を前蹴りで蹴り飛ばした勢いで光剣を引き抜き様子を見る。
「動かないね」
「うん」
「今度こそ死んだかな?」
瑞穂とそんな事を言っていると怪物はゆっくりとした動作で起き上がろうとしていた。傷が再生を始めている。ただここで気が付いたことは失われた右腕が再生するとともに身体が少し縮んだのである。
もしかしたら残ったもっとも大きい部位が再生するのだろうか?
「再生が終わる前に撤収!」
恐らく【分解消去】で最小単位に砕かないとキリが無さそうである。
階段を駆け上がり地上で待機していた健司らを急かして白鯨級潜航艦へと戻った。
一息ついた後に怪物の件で説明をした後に[時空倉庫の腕輪]に放り込んでいた物品を出して掘り出し物をフリューゲル高導師と共に鑑定していく。
ゲームみたいに鑑定スキルとかないもんだろうか?
そんな事を思っていると瑞穂が紙片を僕に差し出していた。
「遺跡で拾った」
礼を言って紙片を受け取ると中身を検める。
真新しい上質紙に書きなぐったようなエルフ語で『レルンにて待て』と書かれていた。
ブックマーク、評価、感想、誤字報告などありがとうございます。
工期が伸びる原因は作業の上流側の会社が納期に対して無責任なんだよねぇ。
そんなわけで七月も更新はちまちまと行います。




