473話
間に合った(間に合ってない)
生死が分からなかった化け物は突然顔を上げると僕らを凝視する。それと共にそれぞれの口が奇声とも取れる叫びを発する。
その奇声は衝撃波を伴っており身体の軽い瑞穂がバランスを崩して転がっていく。僕と九重も思わずよろめく程の威力であった。残りの面子はすぐさま戦闘準備に入る。その隙に正体不明の生物は起き上がると一番上の右腕を振り上げると標的を巽にしたようで振り下ろす。
巽は防弾盾を構えて踏ん張りその一撃を見事に受け止める。そこへ健司が三日月斧を振り上げ大きく踏み込み左脚に叩き込む。岩のような肌を割き皮下脂肪を割くものの強靭な筋肉で止められてしまう。
大振りして動きが止まった健司に対して左の下腕が救い上げるように襲い掛かるが辛うじて転がって難を逃れる。
そして異変に気が付いた。
「あいつ再生持ちだぞ」
九重に言われるでもなく全員が健司がつけた傷跡が徐々に塞がっていくのを見ていた。
転がって距離を取った健司が起き上がるより早く正体不明の生物が左脚を持ち上げ踏み付けようとするのを間一髪で巽の盾打撃が間に合いたたらを踏む。
あの身体の大きさで踏みつけられたら流石にまずい。
見た目の印象から岩肌鬼がベースだと思う。という事は炎か酸が有効そうだ。
僕はすぐさま詠唱に入る。
「綴る、八大、第二階梯、付の位、火炎、増強、炎撃、対象、拡大、発動。【火炎付与】」
詠唱が完了し効果が拡大された【火炎付与】がそれぞれの得物に付与され炎を噴き上げる。対象効果の拡大しすぎで脳に大きな負荷がかかる。
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「あの化け物どうやったら死ぬんだよ!」
思わずといった感じで健司が叫ぶ。戦闘を始めてからすでに一限が過ぎていた。
殆ど手傷を負わせておらず呪的資源と体力だけ浪費している状態であった。
斬っても刺しても叩いても傷が再生していく。魔法の効果も岩のような皮膚で大きく減衰するようだ。ただしこちらの被害も少ない。相手は頭が三つ、三対六腕あるといえど肉体の構造的に攻撃が単調なのだ。
どうも僕らの打撃力が相手の再生能力を下回るようだ。こいつは魔導騎士などで討伐する前提かもしれない。
逃げるいう選択肢もあったのだけれども正体不明の生物の足元に床下扉を見つけてしまい怪物を配置していた目的が扉の守護だと分かった事で自分を含めて全員が欲に駆られたのか逃げるという選択肢はなくなった。
「樹。【自爆】は?」
健司が怪物の攻撃を大きく避けてそう問う。
【自爆】は[魔法の武器]に内包する万能素子を一瞬で攻撃力に転化する関係で威力の調整が出来ない。閉所で使うにはかなり気を遣うのだ。
そしていま僕の手持ちの[魔法の武器]は二本あり一本は大剣であり時間をかけて万能素子を込めてあり破壊力は想像できない。もう一本は気楽に使えるように安物の鋳物の片手半剣に最低限の万能素子を注いだものだ。
威力はともかくあの硬い皮膚を抜けるかどうか怪しい。いくつか魔法を使って岩のような表皮に魔法を抵抗する効果があることが分かっている。
出来れば確実に効果を発揮するように固く分厚い皮膚を抜けた状態で発動させたい。
「威力の弱いのならある」
思案した末に結局こう回答した。
その答えで意味が通じた者がひとり。
これまで抜いていた小剣を戻すと別の小剣を抜き足元へと飛び込み足の甲へと突き刺す。
[鋭い刃]の効果により岩のように固い表皮を容易く貫くと素早く立ち退く。僕は入れ替わるようにその位置に走り込み[魔法の武器]を逆手に持ち再生中の傷口に深々と差し込むと命令語を口にする。
「爆ぜろ」
突き刺した[魔法の武器]が命令を受諾し砕け散ると内包していた万能素子が純粋な破壊エネルギーへと転じ怪物の脚と床を飲み込み怪物の左膝までと床の床下扉を破壊した。
怪物が平衝を崩し倒れてくる。
「先に行く!」
僕はそう叫ぶと破壊された穴へと飛び込む。ほぼ同じタイミングで何人かが飛び込んできた。
ブックマーク、評価、感想、誤字報告などありがとうございます。
仕事の方で別件担当の同僚が致命的なミスを犯した挙句にバックレたもんで尻ぬぐい業務でとにかく時間がありません。
それでも書かないとエタる予感がしたのでちまちまと書いております。
取り合えずまとめて予約投稿はしばらくやめて各話書きあがったら翌朝に予約投稿という形で行きたいと思います。
気長にお待ちください。




