472話 最後の部屋には
通路を戻り【転移門】を研究所へと戻ってきた。[魔法の鞄]から小剣を取り出し魔法陣に叩きつけると同時に命令語を口にする。
「爆ぜろ」
下位古代語の命令語を受諾して[魔法の武器]に込められたが【自爆】が発動する。
圧縮された魔力が開放された破壊のエネルギーに転じ魔法陣が描かれた床を大きく穿つ。これで行き来する事は不可能となった。
赤の帝国は侵攻の名目は奪われた国土の奪還と協力者の粛清という体だ。新たな侵攻の大義がない限り東方南部域の国々には安全だろう。ただし難民や滅ぼした国々の貴族などは犯罪者扱いなので彼らを匿えば侵攻の大義名分を与えてしまう。
南部域の国々の国内事情も難民に対して冷たい。なぜ自分たちの納めた税金が使われるのだ。それなら自分たちに使うべきだという声が圧倒的なのである。
難民たちの選択肢は緩衝地帯を只管逃げ続けて中原まで逃げ延びる事だ。こっそり援助する者がいるようで多少の食料などの物資は得られているようだ。
僕らに出来る事は多くない。例の島へと連れていくにしてもまず迷信深く頑迷な老人らを説得するのが困難だ。思考が柔軟で好奇心のある若い者に限定するしかない。情報が隔絶している社会だと本当に閉鎖的で困る。
戦争の被害人数の多さを聞いて動揺してしまったが単なる人如きでどうにか出来る範疇を超えている。
兎に角チャンスがあれば手を差し伸べるくらいで満足するしかない。
しかし例の島の技術と[時空倉庫の腕輪]を得たことで自分は凄いと錯覚してしまったんだろうか?
よくよく考えれば、なぜ超越者が現世に過度な干渉を行わないかを考えれば分かりそうなものだ。以前師匠が言っていた。強すぎる力が振るわれると必ずそれに反発するように対抗する力が働く。そうなるとより事態は混迷する。
まずは慢心せず僕自身の気を引き締めよう。
「気を引き締めないとな」
「?」
僕の独り言が聞こえたのか瑞穂がコテンと首を傾げる。
「なんでもないよ」
丁度いい位置にいる瑞穂の頭を何気なく撫でると最後の扉を調べるように指示する。
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最後の部屋はエアシャワー室を抜け機密扉を抜けると160スクーナ、ダブルスのテニスコート一面相当の室内に数えきれないほどの棚が並んでいた。
「これなんだと思う?」
下位古代語の読めない九重が引き出しを指さしそう尋ねて来た。確かに近寄ってみると下位古代語で何か書かれているが文字が掠れて読みにくい。
「…………遺伝子情報?」
「ここは創成魔術の研究所だから恐らくだが幻獣や魔獣の作る際の素材ではないかな?」
フリューゲル高導師に指摘され「なるほど」と呟いてしまう。
「貰っていこう」
そう決めると[時空倉庫の腕輪]に棚ごと放り込んでいく。
四半刻ほどで全ての棚を収納して部屋はすっきリとした。そして残されたのは奥にある大きな両開き扉である。蝶番の位置から引き戸だと分かる。
「あれはなんだ?」
巽が扉を指さす。よく見れば呪符らしきモノが両開き扉を封するように貼られている。
「しまった…………。呪符魔術に関しては勉強不足だったなぁ」
と口にしつつフリューゲル高導師の方に視線を向けると。
「…………」
無言で首を振られた。
「開けちまおうぜ」
止める間もなく健司が取っ手に手をかけた。扉の開閉と共に呪符が破れる。
一度開き始めた扉は健司の引きずるように勝手に全開になるまで開いていく。
部屋の中は2.5サート四方である。その中央に奇妙な存在が鎮座していた。
岩山のような存在に見えたモノは体育座りしていたそいつは推定で頭頂長1.25サートになる頭部が三つ、三対六本の腕を持つ岩のような肌の化け物であった。
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次話投稿は間に合わなかった…………。




