469話 転移門の先
さて、誰が先陣を切るか。向こうには多脚戦車が居るかもしれないので結構危険である。
「俺が行くよ」
名乗りを上げたのが装甲歩兵を纏った巽であった。小銃程度では小動もしない防御力があり強固な防弾盾を装備している。いきなり蜂の巣にされる可能性は少ないだろう。
「済まないけど頼むよ」
了承して送り出す。正直言えばこの面子で生存率が高いのは僕か瑞穂、次点でフリューゲル高導師だ。ただし橋頭保を築こうと思うと巽の方が無難である。
巽がドシドシと音を立てて魔法陣の中央まで進んでいくと【転移門】が発動し姿が消える。
いきなり歓迎されるなんてことはないと思いたい。
ただ待つだけというのは意外と長く感じる。一限ほど経過すると唐突に魔法陣が反応した。巽が戻ってきた…………と思ってたら出現したのは負傷した人造人間であった。
しかし襲ってくることはなかった。こちらに気が付いて戦闘態勢に入った瞬間縫には瑞穂の棒手裏剣が眼窩に深々と突き刺さっていた。そのまま倒れると再び【転移門】を潜り消えていった。
「とにかく急ごう」
巽が向こうで襲撃を受けているという事だ。全員が頷くとそれぞれのタイミングで魔法陣に飛び乗る。
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「いや、助かったよ」
飛び込んだ先で三〇体の人造人間に波状攻撃を受けていた巽をそれぞれが各個撃破していって二限ほど片付いた。
軽傷者は出たものの大きな被害もなく治療を終えると一息つきようやく部屋の観察に入った。
テニスコート半面程の部屋で入り口は一箇所だ。扉はなく幅1.5サート、高さ1サートの通路が伸びている。部屋も通路も白色の【光源】の、魔導機器がいくつもあり灯っている。
他にあるものといえば車輪付きの巨大な檻が四つほどある。これに幻獣や魔獣の幼体を放り込んで外に放るのだろうか?
「うまく言えないが違和感があるね」
「…………確かに」
フリューゲル高導師の疑問に頷く。確かにおかしい。なにがおかしいのかと説明できないけどオカシイ。
まず最初の違和感だが培養室は絶賛稼働中であったが研究員や使用人らの遺体が見当たらない。
仮に何かあって逃げ出したにしても研究資料を置いて行くだろうか? 持ち出した形跡すらなかった。
次にここは前史文明の遺跡という記録であったが、施設を見る限りではもっと昔で高度な技術を持っていた頃の施設だ。
当時の人間が接収して再利用していたのであろう。それはいい。生み出されている幻獣や魔獣はどのようにして野に放たれている? それとも素材として使われる?
だが、素材として必要であれば必要な部位だけ培養すれば済む事では? その程度の技術はあったはずである。
そして侵入者に対しての対応が杜撰すぎる。もっとも人造人間の戦闘能力を鑑みれば普通の冒険者であれば余裕で全滅だろうから僕らの戦力がおかしいのかもしれない。
あれ頃と考えているうちにもしやと思った。
「もしや、ここって結社に接収されて絶賛利用されている最中ですかね?」
「結社って言うとあれかね? 魔術師こそが真の人間でありそれ以外は人に非ずとかいう狂った集団かね?」
流石にフリューゲル高導師は知っていたようだ。知らない者もいるようなので一応全員にどういう組織でこれまでどんな活動をしていたか、僕らとどういった因縁があるかを説明しておく。
「…………なるほど。俺らにとっては敵になりうる組織って事か」
一通り説明を終えると九重がそう零す。
「というより敵性組織という認識いいんじゃないのか?」
この中で健司などは結社とやりあっている事もあり、またかという表情である。
憶測だけで話を進めても脱線するだけだし取り合えず先に進もう。
ブックマーク、評価、感想、誤字報告などありがとうございます。
数日分だけ予約投稿しました。
これが投稿されている頃には出張で暫く執筆環境から離れます。トラブルがなければ六月下旬前には続きが書けるはず…………。




