468話 遺跡の中④
倉庫を出て右手の扉を九重が調べる。程なくして、手信号で”異常なし”と合図がである。
幅1サート、高さ1サートにもなる鋼鉄製の両開き扉である。重量を考えると気軽に開けられるサイズではない。鍵はかかっていないようなので巽に開けてもらう。
やはり装甲歩兵のパワーアシストの効果は凄いようでたいして力を入れてなくても重い扉が開いていく。
光の精霊を飛ばして室内を照らすと6スクーナほどの空き部屋であった。奥には入り口と同じくらいのサイズの気密扉があるだけである。
「この向こうはおそらく洗浄室があり、その奥が研究所といったところかね? ここは準備室ってところかな」
フリューゲル高導師が一目見てそう感想を漏らす。僕も同じように考えていた。恐らく次の部屋はエアシャワー室だろう。
その予想は当たった。
気密扉は簡単に開いた。部屋の中は床、天井に無数の穴が開いており床はグレーチング構造となっている。何も知らずに入れば矢隙間と勘違いしそうだ。
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「やはりか…………」
エアシャワー室を通過し研究施設に入った。そこはよく分からない魔導機器と透明な円筒の培養槽らしきものに占領されていた。
「ここは幻獣の生産工房かね?」
いち早く気が付いたのはフリューゲル高導師である。たしかによく見れば一般的に幻獣と呼ばれる生物の幼体しかいない。
幻獣や魔獣は素材としても優秀ではあるが老衰しないと言われている。基本的に長寿の生物は繁殖力が弱く自然繁殖で増えるより素材目的で狩られる方が多いと言われているが絶滅しないところを見るとこういった施設で定期的に増やしているのかもしれない。
しかし壁一面の本棚にぎっしりと書類が埋まっているの思った。
板状器具端末などがあっても紙の種類を捨てられなかったのだろうか?
取り合えず資料は全部持ち帰ろう。そうなると…………。
先ほどの反対側の扉も同じ形状であり予想通りこちらは魔獣の培養設備であった。物色しつつ魔導機器を眺めていて気になることがあった。
「こいつに記されている下位古代語って前史文明と違わないか?」
気になる文言を指で示すと近くにいたフリューゲル高導師が寄ってきて確認する。
「確かに単語と文法に一部違いがあるね。これは…………三代前の前史文明のかな?」
この場合は千年前の文明を前史と呼びそこから三代前という事で四千年以上前の魔法帝国時代の施設を再利用したものではないかとの事だ。
その時代は最も創成魔術が発展した時代であり魔術師たちが戯れに造った獣耳族が生まれた時代でもある。
前史文明がここを発見して再利用していたのが奇跡的に生き残っていたという事だろうか。
そうなると【転移門】の先が気になる。あっちにも生きた施設があるという事だろう。
最後に残ったのが螺旋階段があった裏側の両開き扉だ。ここは普通の人間サイズなので考えられるのが獣耳族の培養か人造人間の培養だろう。
ここの構造は上部構造が宿舎で下部構造が研究所といったところのようだ。
だが、おかしい。
上部構造には遺体すらなかった。彼らはどこへ行った? いや、死んだのだろうけどどこで死んだ?
「先に【転移門】の先を見てみる?」
僕が迷っていると瑞穂が気を利かせてきたのかそう言って来た。扉の先も気になるが一党を分割する愚は犯したくない。
【転移門】を使うために転がしておいた鹵獲魔導騎士を回収して空間を確保する。
さて、誰から入るか…………。
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