467話 遺跡の中③
方針を決める前に既に瑞穂が動いていた。倉庫の壁沿い、多脚戦車の死角を素早く移動し扉の近くに待機する。
恐らく弾切れで接近戦を仕掛けてくるところを狙うつもりだろう。
その予想通り胴体に収容していた一対の刃物付き前肢を出すと接近してきた。
一番最初に動いたのは九重である。障壁の後ろから詠唱を始める。
「戦乙女! お前の投槍を放て! 【戦乙女の投槍】」
九重の声に応え光り輝く投槍が中空に現れると多脚戦車へと向けと飛ぶ。
しかし光輝く投槍は外殻に触れるや否や角度を変えあらぬ方向へと飛んでいった。
「はっ?」
「やっぱり銀鏡鋼か」
銀鏡鋼と呼ばれる特殊な金属皮膜で初級程度の魔法であれば打ち消し中級程度の魔法であれば反射する性質がある。おまけに耐熱性も高いときている。
多重砲身回転連射火器の再装填が行われないうちに何とかしたいけどあれだけの巨体を近接戦で倒すのはかなり無謀だ。しかもこんな地下だと強力な魔法も使えない。金属の塊なので有効な攻撃手段が限られる。
ところが多脚戦車が倉庫へ入ってこない。入り口で立ち止まると多重砲身回転連射火器の再装填を始めた。空になった箱形弾倉を落とすと騎体に内にあった箱形弾倉を再装填する。時間にして10秒もかかっていない。
僕らが対処に困っているうちに攻撃準備が整ってしまった。騎体のあちこちについている眼球ユニットがギョロギョロと動き周囲を観察している。
ところで奴は標的をどういう形で認識しているのだろうか?
疑似視力?
熱源視力?
「九重。目を塞いでくれ」
まずは目視を塞いでみようかと思い九重に頼んだ。
「闇の精霊よ! 来たりて覆え! 【影覆い】」
九重の命に従い影が伸びると多脚戦車を覆う。初級の魔法であるが直接騎体に影響がないので銀鏡鋼の影響は受けない。
それと同時に後ろ手で手信号で移動するように指示する。健司とダグと九重と巽がフリューゲル高導師が張る障壁に後ろに移動する。それと同時に僕は【力場障壁】の維持を止めると同時に無詠唱魔術の【瞬き移動】で倉庫の扉の横、瑞穂とは反対側へと移動する。
その瞬間、多重砲身回転連射火器が火を噴き先ほどまで僕が居た場所を無数の弾をまき散らす。
どうも熱源視力で対象を追えるようだ。こうなるとこちらが相手を視認できないので【影覆い】は役に立たない。九重に解除させる。
解除と同時に反対側に居た瑞穂が飛び出す。[鋭い刃]で斬りかかる。しかし火花だけが散っただけだった。強固な魔法の防護が施されていて普段のように装甲を紙のように切り裂く事が出来なかったのだ。
多脚戦車の中肢が持ち上がり先端の鋭い爪が振り下ろされるのを無詠唱魔術の【瞬き移動】で躱すと武器を儀式用短剣を取り出す。以前貰った龍の牙を削ったものだ。そして素早く多重砲身回転連射火器の射線の通らない胴体下へと潜り込むと真上へと突き上げる。
龍の牙は全てを穿つというだけあっていとも容易く装甲を貫通する。
だが、いかんせん刃渡りが短かった。単に刺さっただけである。でも眼球ユニットが下にいる瑞穂に注目し一対の中肢が左右から瑞穂に襲い掛かる。
それを【瞬き移動】で躱すと無防備に側面を晒している多脚戦車に僕が[魔法の鞄]から片手半剣を取り出し叩きつける。
そして――――。
「発動。【自爆】」
略式魔術で安物の[魔法の武器]を自爆させる。
[魔法の武器]が自壊し内包する魔力が集約して純粋な破壊のエネルギーへと転じると多脚戦車の右半身を消滅させた。
バランスを崩し横転する。倒れ方が悪かったのか多重砲身回転連射火器が歪んでおり発射できない状態であった。
半分ほど欠落しても左側は動いていたが残った面子でボコった。
「多脚洗車があっても前史文明は終末戦争で負けたんだろ? 終末のモノってどんな存在なんだ?」
九重そんな疑問を口にする。僕も師匠から資料を貰っているが最悪の場合は例の島に逃げ込めばいいかと軽く考えておりあまり読み込んでいなかった。
これは主要メンバーで勉強会が必要かもしれない。
取り合えず残骸を[時空倉庫の腕輪]に収納すると念のために【転移門】に蓋をする。
何をするかというと床の魔法陣の上に大量の荷物を置くのだ。もっとも完全に魔法陣の上に置いてしまうと転送されてしまうので鹵獲した魔導騎士を魔法陣からはみ出すように五騎ほどおいておく。これでとりあえずは安心だ。
さて、残りの扉を調べよう。
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