465話 遺跡の中①
偽装扉はT字路をぐるりと周った真裏であった。大理石の壁には切れ目すら見えないのだが、これは【幻影】で扉を隠しているせいだ。
瑞穂がなぜ気が付いたのかと言えば僅かに流れる空気だという。精霊使いであれば気が付いてもおかしく無かったが九重はまだ自身の斥候としての経験は浅く気が付かなかったようだ。
偽装扉は特に罠もなく開く。押し扉のようだけど【幻影】で覆われており壁にめり込んでいるように見える。
扉を潜るとそこはテニスコート一面分くらいの部屋であり現在の位置は床から高さ2.5サートほどの箇所であり螺旋階段が目の前にある。
瑞穂は特に気にすることなく螺旋階段を下りていく。
部屋の床にはかなり巨大な魔法陣が描かれている。
「これは【転移門】だね。しかも機能している」
フリューゲル高導師が興味深そうに魔法陣を観察している。
部屋のそれぞれの壁には両開き扉がある。その中で一つだけ大きな扉が存在する。
「あの扉は物資を集積する場所か?」
健司が指摘した扉は恐らくそうだろう。【転移門】で外から物資を運び入れたり送り出したりしていたのだろう。
そうなると他の三つの扉の奥は何だろう?
まずはどこから調べようか?
【転移門】は機能しているので戻ってこられるだろう。転移先は逃げないので後回しにしよう。
全員で協議した結果、倉庫のような場所から探ろうという事になった。魔法陣を迂回して巨大な両開きの引き扉の前に立つ。
瑞穂が周囲を一通り調べるとこう報告した。
「たぶん警報が仕掛けられている。構造上解除は無理」
瑞穂の話だと扉が開閉すれば勝手に何処かで開閉を知らせる仕掛けらしく対策はないとの事だ。
「なら、開けてしまうしかないね。巽開けてくれ」
「判った」
そう返すとプッシュプルハンドルに手をかけをかけ開いていく。それと同時に何処かで警報がなるのが聞こえる。
7.5サルトほど開いたところで光の精霊を放り込み内部を確認すると予想通り倉庫であった。いくつもの巨大な棚とそこに溢れんばかりの物資の数々。
0.5サートほど開き中に入る。
すると黒ワンピースにエプロンドレスを纏った性別不詳の無表情の人型生物が近づいてくる。
「あれは人造人間かね?」
流石にフリューゲル高導師はすぐに気が付いたようだ。
「そうですね。ただ趣味丸出しなのか骨格から察するに男ですね」
無表情の小柄な男の娘のメイドであった。マニアックな…………。
僕らの前まで来ると一礼すると下位古代語で、「身分証明証を提示してください」と抑揚のない声で告げた。
あ、これはマズい奴だ。
身分証明証などない僕らは戸惑っていると、「対象を侵入者と断定排除し――――」
瑞穂が最後まで言わせなかった。[鋭い刃]を一閃するとメイドの首がごろりと転がる。
だが少し遅かったようだ。奥から光剣を持った男の娘メイドの集団が現れた。
こいつらを排除しなければ物資を調べられなさそうだ。
ブックマーク、評価、感想、誤字報告などありがとうございます。
流れ作業の業界で上流側の作業が滞るとホント困りますよね。なんせ最終納期は変更できないので業務が途端にブラック味を増しますから。




