464話 遺跡へ⑤
右側の通路を進む。
なぜか左側に扉がなく右壁側に等間隔に木製の片開き扉が5つ並んでいる。扉の間隔から部屋のサイズは奥行きがある長細い部屋の可能性がある。通路は扉の先で左に折れ曲がっている。
まず九重が一番手前の片開き扉を調べ始める。まずは扉周辺を目視で観察から始める。異常が見られなければ触診である。ところが九重の動きが扉の手前でピタリと止まる。
「どうした?」
そう問いかけたものの反応が返ってこない。何か判断に迷うような感じだ。
「ダグ。この扉を思いっきり突いてくれるか?」
「判った」
そう答えると羽根付き槍を腰だめに構え鋭い刺突を繰り出す。
九重の勘が当たったようで刺突を喰らったところがぐにゃりと穿む。
「扉擬態型粘土状疑似生命体だ!」
ダグの叫びと共に健司と巽の鎚矛が叩き込まれると呆気なく動かなくなった。
基本的に粘土状疑似生命体は不意打ちを避けられれば脅威度は一気に下がる。
壊れた粘土状の扉を退かして光の精霊を先行させ部屋を覗き込む。
部屋はほぼからっぽであり奥にあからさまに怪しい収納箱が一つあるだけだ。
「あれって、やっぱりアレだよな?」
九重がどうすると無言で問いかけてくる。恐らくアレだろうけど遠距離から射かけてみるかな。
[魔法の鞄]から機械式弩を取り出し打ち込んでみた。
太矢は収納箱に突き刺さった瞬間蠢きだしその正体を現した。
「やっぱり収納箱擬態型粘土状疑似生命体だったかぁ」
収納箱に擬態し強力な一撃で迂闊な盗賊を捕食する魔法生物だ。ゲームだと擬態する怪物などとも呼ばれている。
しかし知覚できる範囲に生命体が居ないため暫くすると再び収納箱に擬態した。
ま、経験値などという概念もないので放置という方向で次の部屋へと向かう。
その後の四つの部屋は収穫がなかった。もしかしたらこの遺跡は組合の記録に載っていないがはるか昔に盗掘済なのではと疑ってしまう。
でもそれなら粘土状疑似生命体が残っているのが不思議だ。これは――――。
「上層部は偽装施設かも?」
そう呟く瑞穂の意見が正解な気がする。
結局通路に沿って移動しては部屋を調べて、警報が鳴って魔法生物に襲われたりしつつを繰り返し気が付けば元のT字路に戻ってきた。居住区画の様であったが小奇麗すぎて偽装区画に思えたのだ。
「この一刻は何だったんだ…………」
九重が項垂れる。斥候は結構神経を使うので無力感を味わうと一気に精神的疲労が来るんだよね。
どうも九重の技量ではこれ以上は無理そうだ。斥候のレルンから学び始めたばかりだし仕方ない。
「この大扉を開けるかい?」
フリューゲル高導師がそう提案してくれたが僕の勘ではここは開けたくないと言っている。
「瑞穂。どうだい?」
瑞穂に話を振ると激しく首を振る。
「ではここはハズレ遺跡なのかい?」
フリューゲル高導師が問いかける。
瑞穂は問いに首を振って否定した後に「ある」と答えた。
今回は九重の斥候としての技量を見たかったのと各位の戦闘能力を見たかったので最低限の目的は達している。何かあっても口出し無用と言っておいたがもう良いだろう。
瑞穂は入り口があるといった。なら行くしか無かろう。
「入り口まで案内してくれる」
肯首すると「こっち」と言って奥へと歩いていく。
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