463話 遺跡へ④
扉を潜ると長い通路が続きT字路となっている。T字路の正面は巨大な両開き扉があり如何にも何かありそうである。そこまでに至る左右の壁は扉ひとつないが構造的に何らかのスペースがあるのではないか? 偽装扉があるのではと思わせる。
先行させていた光の精霊を呼び戻し10フィート棒で周囲を突きながら九重が先行する。ここで九重は一つミスを犯す。上部の警戒を疎かにしたことだ。
「九重!」
たまたま気が付いた僕の叫びと瑞穂がスカートの中から棒手裏剣を抜き投擲するが同時だった。天井から降りてくる触手に棒手裏剣が突き刺さり僅かに動きが鈍る一瞬の間に全員が散開する。不意打ちの失敗した天井擬態型粘土状疑似生命体の末路は呆気なく長物を持ったダグがめった刺しして片付いた。
「すまん」
「誰にでも失敗はあるよ。次から気をつけよう」
詫びてきた九重にそう言って返す。今回は訓練の一環だし失敗も織り込み済みだ。怒ったところで失敗がなくなるわけでもないし変に委縮されても困る。誰も被害を受けなかったし問題なしだろう。
これに関しては知識と経験の差だと思っている。
「ここは創成魔術の研究所なのだろうか? そうなると…………」
創成魔術の産物である粘土状疑似生命体が出てきた事でフリューゲル高導師が敵対的対象の存在を予想を立てる。専門分野ではないので少々残念なようだ。
「統合魔術かもしれませんよ?」
それに対して僕は答えを早まらないようにもう一つの考えを述べる。全ての魔術の極めた統合魔術であれば他の系統の魔術も取り扱ったはずである。
慎重に3.75サートほど進むと九重がピタリと止まり右の壁に注目する。何か見つけたようだ。確かに目を凝らすと薄っすらだけど壁に切れ込みが見える。偽装扉だろうか?
慎重に壁に近寄り周囲を観察する。程なくして結論が出たようだ。
「最初は偽装扉かと思ったけど、こいつは罠だな。種類までは特定できないが関わらない方が良さそうだ」
九重がそう報告してくる。僕は瑞穂の方を見ると肯首する。
「無視しよう」
「わかった」と言うと九重は再び慎重に進みだす。ある意味このペースが普通で瑞穂みたいにスタスタ進んでいくのが異常なのである。
更に3.75サート進みT字路に到着した。鋼鉄製の巨大な両開き扉で、扉のサイズは通路の幅一杯である。ちょっと胡散臭い。
左右に伸びる通路はなぜか幅0.625サートと両開き扉の片方と同じサイズである。更に扉は前開き型だ。
「なんか扉が開くと左右に行けなくなりそうだな? なんか罠があるのか?」
「あるかもね。とりあえず正面は無視しよう」
単なる勘であったが、この判断が正しい事は後でわかるのであった。
僕らはまずは右側の通路から調べる事にした。
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