458話 引っ越し②
誰だろう?
そう思いつつ応接室へと向かうと待っていたのは中型魔導艦である地上艦の運行試験でお世話になったラーケン艦長であった。
挨拶を交わし来訪の用件を聞くと驚いたことに軍を辞めたので雇って欲しいとの事であった。
この時期に辞められてというのが正直って胡散臭い。どうも疑心暗鬼になっている気がする。どう答えるか躊躇しているとラーケン艦長が懐から一通の手紙を取り出した。封蝋の押印が双頭の真龍のものなので師匠が絡んでいるのだろう。
「拝見します」
断ってから封を切り内容を一読する。
内容を要約すると辞めたいと思っていた事は事実である事。ただし時期的に辞められないので王家に貸しがある師匠が圧をかけて引き抜いたこと。ただし辞めるに至った理由に関しては守秘義務に抵触するので喋る事は出来ない事。うちの共同体に入るにあたり守秘義務があれば応じる事。他の艦橋クルーも引き取ってもらいたい事が書かれていた。
「判りました。歓迎します。ようこそ謹厳実直へ」
ラーケン艦長以下艦橋要員を受け入れる事を決めたら次はどこで働いてもらうかだ。ここは白鯨級潜航艦の運用を任せようかと考えた。いちから人材を育てるのは大変なのでこれは大いに助かった。流石師匠。
そこからは話が早かった。後日全員で来てもらい待遇面での話から始まり実際に白鯨級潜航艦を見てもらい手引書を読み込んで実際に運用可能レベルになるのに一週間ほどで仕上がってしまった。今後は若い連中の指導をして貰う事になる。
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「しかし坊ちゃん。これからの事を考えるとこの潜航艦は武装が必要なのでは?」
そう言って来たのはケーニッヒ副長だ。いまは白鯨級潜航艦の運用に慣れてきており新拠点と十字路都市テントスの拠点間を荷物の運搬を行っており報告書を持って来た時の事だ。
傭兵共同体扱いなので武装をしても怒られないのだけど申告に数十枚の書類が必要で更に立ち入り調査を許可しなければならない。流石に次元潜航艦を公開するのはマズイ。
「流石にこいつを見せるのはマズいかな。でも武装に関しては検討はしているよ。でもなんで?」
「専門家の育成には時間がかかりますので早めに砲雷長や船務長を教育する必要があるかと」
そう指摘されすっかり忘れていたのだった。
「誰か心当たりありませんか?」
この時代だと大砲くらしかないのでカテゴリー的に専門家が殆どいない分野なのだ。
「砲雷長は搭載武装を考えると素人で見込みのある奴を育成したほうが早いかもしれませんね。船務長であれば海軍の退役軍人に心当たりがあります」
「では、船務長に関してはその人物を紹介してください」
「承知しました」
その後こまごまとした話をしてケーニッヒ副長が帰ると僕も移動の支度を始める。と言っても大半の私物は[魔法の鞄]に納めているので八半刻ほどで荷造りも終わってしまった。
[転移門の絨毯]を通じて新拠点へと移動する。
引っ越しに際して御屋敷の地下に再設置したがもっと使い勝手が良い場所を探したほうが良いかもしれないなどと思いつつ御屋敷を出ると以前見た時よりずいぶんと変わっていた。
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