48話 目が覚めるとそこは…………。
2019-06-15 誤字修正
「おはようございます。ご気分はいかがですか?」
目が覚めたら、そこにはちょっと幼い感じの女神さまが居た。
あーやっとテンプレ展開きた!
もう遅いよ!
ぼやける思考でそんなどうでもいい事を考えているうちに意識がはっきりしてきたのか寝ている僕を見下ろす人物が誰かはっきりしてきた。
「あれ? マリアベルデさん?」
何度か瞬きし確認しようと手を伸ばすとバシッっと横から伸びてきた手によって叩き落とされた。
「こらっ。マリアちゃんにお触り禁止!」
声の主は和花であった。自分自身の身に何があったかさっぱり判らないがきちんと和花を守れたっぽくて安心してしまった。
一連のやり取りをクスクスと笑って眺めていたマリアベルデさんは立ち上がり、
「もう大丈夫そうなので私は帰りますね。樹さんは本日は安静にしてくださいね」
帰ろうとするのを引き留める。
「瑞穂の件もまだなのにありがとうございました。この御恩は必ず」
僕は上体を起こしてそう礼を述べる。
「これも何かの縁でしょうし、あまり気負わないで下さいね」
そう微笑みながら帰っていった。
「そういえばマリアベルデさんが何処に住んでるか聞くの忘れてた!」
お礼は言ったが、瑞穂を買い取った時の借金の返済などもある。
「あ、マリアちゃんはなんか変質者に追われているみたいで決まった場所に泊ってないみたい。だからお金の件とかは会えた時で良いんだってさ」
どうやら和花が確認取ってくれていたようだった。
マリアベルデさんが帰ったので、僕はあの戦闘から何があったのかを和花に説明してもらった。
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「恩恵ねぇ…………」
昨日の下水での溺死も含めて僕はこの世界で四度死んでいる。心肺停止もこの世界基準なら死亡扱いにはならないけど放置すれば死んでいるので死亡という事にした。
二回目以降に師匠からあれこれと習ったけど、恩恵やらの兆候はなかった事から下水で溺死という不幸に神も無言で手を貸したと言うことだろうか?
しかし取扱説明書もないし困るんだよねー。
「そういえば健司たちは?」
ここが僕の長屋だとすると健司たちはどこなのだろう?
「ん? 皇と御子柴は別棟のもっと小さい所をペアで借りてるよ」
和花がそんなことを言った。その表情は何をおかしな事をと言ってる感じである。
「あれ? ならこの部屋は?」
「私と瑞穂ちゃんと————」
そう答えたの和花は途中で言葉を切り僕を指差す。
「は? なんで? いつ?」
そんな話は聞いてないよと抗議をするのだが、
「冒険者組合で賃貸の手配をする際に皇が確認したよ? まー樹くんは考え事に夢中で生返事だったから多分聞いてないなーとは思ってたけど」
くそ! 健司め謀ったな!
「元の世界ならいざ知れず、こっちの世界では今更じゃないの?」
僕が気にしすぎなのか?
「瑞穂は————」
「問題ない」
質問する前に食い気味に返答されてしまった。相変わらず抑揚がない声で感情が分かりにくい。
現実を大人しく受け入れるかと諦め気分だった時だ…………。
ドアがノックされる。
「俺だ」
俺って誰だよと突っ込みたかったが絶対に怒られるので止めた。
扉に一番近かった瑞穂が無言で立ち上がりスっと扉を開ける。
来訪してきたのは分かっていたが師匠と————。
「えーと…………後ろの方はどちら様で?」
師匠の後ろには初めて見る初老の女性が立っていた。
「この方は迷宮都市ザルツの太陽神神殿の最高司教であるマーサ卿だ。樹に【霊的慰撫】の奇跡を施して貰おうと態々出向いていただいたのだが…………無駄足になってしまったようだな」
師匠はそうため息交じりでぼやいた。
高貴な聖職者の方だったのか…………格好が安っぽい筒型衣だったのでてっきり掃除のおばさんか何かかと…………。
危ない危ない。失礼なこと言うところだった。
「何があった?」
その師匠の質問は意識が戻るはずのない僕が何で起きているんだって事だろう。
すぐさま和花から聞いた話をそのまま話す。
「最近耳にする小さな聖女様の事ね。炊き出しの手伝いをしたり神殿の奇跡の行使を手伝ったりしてる娘よ。宗派は違うのだけど————」
人手が足りなくて助かっているとマーサ卿の言葉は続く。
なんでも太陽神は神話大戦末期で死亡した光の神の眷属の一柱で権能の一部を引き継いだ大神だ。法の神ほどではないが法の番人の一面もあり神学と規律を重んじているそうなのだが、その弊害なのか高位の聖職者でも初級の奇跡しか行使できない者も多く、現在改革中なのだそうだ。
そんななかで高位の奇跡を楽々と行使するマリアベルデさんの存在は助かっているとか。
何処で寝泊まりしているかは分からないけど会おうと思ったら太陽神の神殿に行けば会えそうだなと思っていると————。
「おい。マーサ卿を送りがてら買い出しに行くぞ」
師匠がそんなことを言い出したのだが…………買い出し?
一瞬なんの? と思ったが…………生活用品か。
そういえば、この部屋なんもないんだよね。
どのみち迷宮へは潜れないし、訓練とかも無理だし、万能素子を扱う行為そのものを禁じられてる状態なのである。娯楽の少ないこの世界じゃ暇で死んでしまうんじゃないだろうか?
そういう意味でも買い物は非常に助かる。暇つぶし的な意味でも…………。
部屋を出て判ったのだが、僕らが借りた賃貸は板状型集合住宅…………日本帝国でも多くある建物の一面に住戸が並び、裏側が外廊下になっている形状の建物の事だ。
五階建ての五階だったのだ。これは毎日面倒だなと思っていたのだが外廊下を歩いていくと————。
「昇降機があるんですか…………」
驚いたことに有料である。
一回利用するごとに1ガルド=小銀貨1枚払わないといけないのである。
入居当初はみな利用をケチって徒歩で階段を上り下りするのだが、そのうち金払って乗るのが日常になると言われた。
わかる。
一階に降りてみるとさらに驚いたことによろず承り係がいるカウンターや待合ホール、共用の洗濯場と大浴場まである。
防犯的な意味もあって和花と瑞穂をこっちに住まわせることにしたらしい。
僕はというと男避けって名目だそうだ。
因みに健司たちの方は木造平屋の長屋らしい。
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