4話 予期せぬ再開
序盤は視点が違います。
2018-10-13 誤字脱字の修正。文言の修正。
2020-07-05 一部文言を修正。
2023-09-07 一部文章を修正
「これは酷いな…………」
三日月斧を担いだ偉丈夫がその村の惨状を見て呟く。
「死後三日くらいでしょうか?野生動物に喰われてる遺体もありますが、どの遺体も死亡原因は頭部または頸椎への鈍器による強打による一撃ですね。結構な技量かと思います。ただ…………遺体はすべて身包み剥がされてるのは気になりますね。こんな開拓村の村人の衣服なんてお金にはならないでしょうし…………。それと村はずれにまだ新しい墓標が大量にありました。普通ではない何かがあったことは間違いないようですね」
偉丈夫の隣に立つ銀髪の美丈夫が目の前に並べられている全裸の九体の遺体を見てそう分析する。
「村を一通り周って分かったことだが、わずかだが争った形跡が残っていた。たぶん一週間は前くらいのものだと思う。足跡から見て赤肌鬼の襲撃だと思うが…………古すぎて流石に数まではわからんがな。どう思う?」
三日月斧を担いだ偉丈夫はそう分析し銀髪の美丈夫に問う。
「憶測でいいなら…………」
美丈夫はそう前置きをして自分の考えを語りだした。
「赤肌鬼の襲撃は間違いなくあったんでしょう。村はずれの大量の真新しい墓標はそこの遺体になってる彼らが弔ったと思います。焚火などの跡を見る限りでは四〇人以上が数日共同生活していたようです。目の前の遺体は仲間割れの結果ではないかと推測しますが、あまり自信がありません」
美丈夫の推論を聞き考え込んでいた偉丈夫が男女二体の遺体を指し口を開く。
「この九体の遺体のうち二体だけ明らかにおかしい。七体は一撃で仕留められているがこの二体だけ全身に打撃痕があり、特に頭部が原形を留めていない」
「年齢ははっきりしませんが成人年齢には達しているでしょう。同じような状態の遺体ですし、この男女は恋人同士でしょうかね」
「そうか?こっちの顔の潰れた娘は成人にしちゃ胸がなぁ…………」
美丈夫の意見に対し偉丈夫がそう答える。
「私も最初はそう思ったのですが…………胸は残念ですが、腰廻りのくびれ等から成人だろうと判断しました。後は…………人種が違いますね。この極東諸島の人種は東方南部系人ですが、目の前の遺体は西方の日本皇国人に似ています」
「まさか————」
美丈夫の意見に対し口を開いたタイミングでドサリという音とともに、
「これで最後のはずじゃ」
そう言って担いでいたモノを地面に下ろした樽型体形のやや小柄な美髯夫が呟く。
「全部で一〇体か…………。景気よく【火葬】の魔術で焼却しておくか…………」
偉丈夫は首を振り自らの考えを振り払って魔術の詠唱、呪句を唱え始める。
「綴る、八大、第————」
「待ってください」
そう言って何かに気が付いた美丈夫が詠唱を止めさせる。
「これを見てください」
美丈夫はそう言う最後に置かれた一〇体目の遺体を指示した。
「そいつがどうしたんじゃ?」
樽型体形のやや小柄な美髯夫が問う。
その問いに答えずに俯せに転がされていた遺体を足でひっくり返す。
「…………!」
「おい…………なんでこいつがここにいるんだ」
棍棒か何かで頸椎をポッキリやられている若い男の遺体を見て偉丈夫は呟いた。
「憶測ですが白の帝国が最近になって大規模召喚を行ったと聞きますので巻き込まれたものの半端な抵抗の結果、本来召喚されるべき白の帝国ではなく、こんな極東に落ちたのではないのかと…………これなら彼らが違う人種であるのも納得です」
それに対して美丈夫は淡々とそう回答を述べる。
「また白の帝国の集団誘拐か…………困ったもんじゃ」
美髯夫がため息交じりにそう零す。
「以前にこいつの家には世話になったし放置するのも気分が悪いな…………全員生き返らせて話を聞いてみるか」
偉丈夫はそう言って樽体形の美髯夫へと向く。
「バルド。【死者蘇生】の奇跡はあとどれだけ使える?」
「まーワシは普通の地霊族族じゃからなぁ…………」
美髯夫はそう言って髭を撫でつつ少し考えこむ。
「頑張って鍛冶の神に祈るが…………四人が限度かのぉ。ここに来るまでに遭遇した赤肌鬼の大集団相手に調子に乗って奇跡を使いまくったからのぉ」
小柄な樽型体形の男————地霊族のバルドがそう答える。
「分かった。それで頼む」
偉丈夫はそう言ったあとで別の遺体を見る。
「では奇跡の使えない我らは真語魔術でまずは肉体の再生を行いましょう」
そう言って美丈夫は自らの腰袋をごそごそと漁りだす。
「取りあえず生体情報を拾って【再生】で肉体を復元をしてからでないと【死者復活】が使えないのが真語魔術の面倒だなところだな。触媒が足りるといいんだがな…………」
偉丈夫もそう言うとゴソゴソと腰袋漁りだし、取り出したモノを遺体に振り掛ける。
「死後三日だと成功率は結構ギリギリですね。しかし高価な触媒を用いてまで目的の人物以外を蘇生する意味があるのでしょうか?」
美丈夫の物言いは暗に高価な触媒を用いて蘇生する価値はないと言っているようだが、偉丈夫は聞き流して【生体走査】の魔術を用いて復元する肉体の情報を調べる。
「こっちの男女も知人かよ。運が良いのか悪いのか…………」
偉丈夫のその独り言に美丈夫が反応する。
「頸椎が折れてるのが樹でしたから、その男女は竜也と和花ですか…………。いつも三人でつるんでましたがこんな所にまで一緒に来るとは…………。縁ですかね?」
【再生】が終わって修復された死体を見て美丈夫は、
「しかし和花は一年見ない間に綺麗になりましたね。胸は大変残念ですが…………」
美丈夫の言いようにひとしきり笑った後で偉丈夫がこう呟く。
「しかし和花はてっきり樹を選ぶと思ったんだがねぇ。解らんもんだ」
偉丈夫と美丈夫は思い出話に浸りつつ、高難度の魔術を熟していった。
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「ここは…………何処だろう?」
見回してみても記憶にない場所だ。それに寝床がふかふかだ。心地よすぎてそのまま意識が…………。
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「はっ!」
どうも本当に意識が飛んだらしい。先ほどまで窓から明かりが射し込んでいたのだけども今は月明かりだけのようだ。薄暗い。
事態を把握すべく起き上がろうとするも倦怠感が酷くて四苦八苦しながらなんとか上体を起こした。
この感覚は数日前にも体験した事がある。
「そうか……。僕はまた死んだのか。でもどうして、誰が蘇生を?」
死んだ直前の記憶がまるっきりない。最初に死んだときは、学校全体を覆ったと思われる強制召喚に巻き込まれて、降り立ったこの異世界の開拓村で赤肌鬼の集団に襲われて、一緒に巻き込まれた学生すべてが殺された。
あの時のボロボロの刃の小剣を突き刺された感覚がまだ生々しい記憶として残っている。
すっごく綺麗な神秘的な少女とおっさん達が偶然全滅した僕らを発見して蘇生を行いある程度動けるまで面倒を見てくれたけど、その神秘的な少女が去って既に5日ほど経過してる筈だから……。
そう言えば僕の持ち物がない。
制服を着ていた筈なのに今は白い筒型衣のみだ。下着も穿いてない。
ここは無機質な小さな部屋だ。三畳あるかどうかだろうか?ベッドに物書き用の机と椅子があり、ベッドの下は覗いてみると収納のようだ。人の気配は…………流石にこの部屋には居ないが外に誰かいるようだ。
場所は分からない。
開拓村の家屋にこんな部屋はなかった。軍事教練の一環で泊まった防衛軍宿舎に似ている。まさかとは思うけど夢でも見ていた?
それともこれも夢なんだろうか?
「いたい…………」
おもいっきり自分の頬を引っ叩いてみた。
とにかく思い出そうと唸っていると───。
ひとりのイケメン偉丈夫がノックもなしに扉を開けて入ってきた。
「起きたのか? 依頼でこの開拓村に来たらお前さんを含む見慣れたやつらが転がってたから取りあえず蘇生したんだが、何があったんだ?」
そう言って湯気の立つ金属製のカップを差し出す。
このイケメンな偉丈夫を僕は知っている。
三年ほど前に我が家に突然現れて二年ほど食客として滞在していた異世界から来た知人だ。一年ほど前に元の世界に帰ったはずなんだけど……。
カップを受け取り口をつけてみると牛乳をベースに何かを溶かし込んだのかややドロっとした触感の飲み物だ。甘みがあり普通に飲める。人心地ついたので幾つか確認しようと口を開く。
「ヴァルザスさんお久しぶりです。まさか再会できるとは思ってもみませんでしたが……」
「俺もまさか死体と対面するとは夢にも思わなかったよ」
そう言ってその偉丈夫————ヴァルザスさんは笑った。
あれ?そういえばさっき見慣れたやつら? 複数って事か?
「他には誰が死んでたんですか?」
「お前の幼馴染の竜也と和花に、同じ年頃の男女が七人だ。お前さんを含めて一〇人が開拓村で屍を曝していた。死後三日くらいだったな」
一〇人か……残りの三五人はどうしたんだろう? 初日の夜に誘拐された可能性が高い薫と瑞穂の行方も気になる。そんな事を思案しつつ不思議な飲み物を飲み終わってカップをヴァルザスさんに返す。その時にカップを受け取りながらこんな提案をされた。
「月齢と時空波長の兼ね合いで今日中なら【次元門】の魔術でお前らを元の世界に戻してやれる…………って言ったらどうする?」
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