幕間-32 召喚された者のその後③
躊躇なく去っていくのをただ茫然と眺めていた。だがいつまでも途方に暮れているわけにはいかない。俺がしっかりしないと奴隷の子らはどうしていいか判断が出来ない。特に破棄奴隷は自発的には動かない者が多い。それはどんな行動が主人の地雷を踏みぬくか判らないからだ。誰だって抵抗も出来ない中で一方的に暴力にさらされたくないだろう。彼女たちはまだ俺がどういった人物か判らないのだから。
粗末な貫頭衣だけの状態なのでとりあえず数着の衣服と下着や布靴あたりを買う事にしよう。衣服は俺が店員さんに相談すれば何とかなるだろうが下着は流石になぁ…………。
彼女たちの素足が汚れてしまうが移動する事にした。この世界の衣装事情は基本的には既製品の服は売ってない。注文品か中古の品を買う。下着や布靴は既製品もあるが人によっては中古を買う人もいるくらいだ。
中古衣服を取り扱う店舗に到着し店内を見回す。様々な衣装などが展示されているほかに布靴なども多くはないが並べられている。俺は店員さんを呼び彼女たちに合う服と下着を三セット、それに靴を一足用意してもらう。
服に関しては中古で程度の良いものだと大人サイズで一着で小銀貨7枚、下着とセットでも中銀貨1枚ほどだった。子供用の布靴は
購入した衣服は飾り気のない筒型長衣であった。ま、良いものは稼げたら考えよう。支払いを済ませてたので宿を探そう。子供らの体力が心配だ。
何件かお断りされたものの陽が落ちる前に市壁沿いのやや薄暗い場所にある宿屋で一週間ほど泊まれることになった。
その宿屋は三階建てで一階は食堂兼酒場と宿屋主人らの住居スペース、二階は少人数用の部屋、三階が大部屋となっている。俺らが連泊するのはその上、屋根裏部屋である。一泊朝食つきで9人で泊まっても中銀貨2枚と破格である。ただしお湯は別料金だし便所は建物の外にしかないし燃料角灯はレンタル料金が発生する。
おっさんの話だと中原の大都市以外だとこの程度は普通らしい。
宿も決まった別料金で子供らの為にお粥を用意してもらい自分らで部屋まで運ぶ。上の部屋ほど安い理由がこの面倒くささである。
実は困ったことがある。
一番年上の女の子以外に話が通じないのである。俺に付与された翻訳能力が公用交易語のみであったためだ。仕方ないので一番年上の子、名前をオリヴィエという少女に下の子らの世話を一任する事にした。
おっさんの話だと公用交易語は共通語みたいなもんではあるがある程度教養が必要とされるので一人だけ出自が違うのではないだろうかと思っている。
その日は全員毛布に包まって眠った。夜中にお約束の定番みたいな展開はなかった。もっともそんな体力が残ってるはずもない。
さて、これからどう生きようか。運や環境や家庭環境や遺伝子やら才能が等とやらない言い訳はいくらでも出てくる。そこで腐って止めるのも手ではあるがこの世界止めれば死である。とりあえず手持ちの手札で何とかしないとならない。
翌日からは衰えた筋肉や体力を回復させるために出歩いたりしつつ身振り手振りとオリヴィエの補助で少しずつコミュニケーションを取るようにした。
奴隷商にかなり脅されていたようで終始ビクビクと怯えているのだ。
そんな日々も二週間もすると体力も回復し身体つきもかなり元に戻ってきた。それに俺に対してもかなり慣れて来たのかたどたどしい公用交易語でコミュケ-ションを取るようになった。
夏の前月の終わりを目途に十字路都市テントスへの移動を考えないとマズいかなと思い始め子供らを引き連れて買い物に出かけた。
旅装を買うためだ。旅行用革靴は本人の足に合わせないと駄目なので時間もかかるし結構お高い。一足で中銀貨3枚だ。
それに旅に適した丈夫な服と日差し除けの頭巾付き外套と背嚢や水袋や毛布などの装備品を買っていく。
それらが揃った後は鍛冶屋へと赴き大振りの短剣を各人に買い与える。
他にも投石紐を各自に持たせた。練習しなければ役にも立たないだろうけどこれに関しては道中で暇を見て練習させようかと思う。
子供らうち10歳児であった7人は中原民族と南方民族の混血児であったが一番年上で12歳のオリヴィエは中原民族であった。打ち解けていくうちにある程度素性も分かってきて彼女は独立商人の娘で2年前まで両親に連れられ様々な地域を廻っていたという。知識も豊富で自衛程度の剣術や射撃術を学んでおり武装も小剣と軽弩を持たせてある。防具は一応硬革鎧を着せているが、成長期なので恐らく近いうちに買替か改造を視野に入れるようにと言われた。
それらの装備などで金貨3枚を消費しなんとか夏の前月の最終日に旅立つ事が出来た。
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