幕間-31 召喚された者のその後②
生活魔術師を見つけて金を払い汚れを落としたのちに商人組合へと向かう。組合の建屋に入りおっさんがあれこれ書類手続きを指示されそれに従い進めていくこと一刻たった頃だろうか。受付に呼び出されると魔法の契約書を見せられ説明を受ける。
強力な呪いの効果で契約違反を行うと死んだ方がマシというほどの苦痛を味わうという。過去に発狂死した者も居るそうだ。魔法の契約書には俺は謹厳実直という共同体に金貨50枚を借りる。利息なし。生活に困らないレベルで返済可能という破格の条件であった。条件は夏の後月末までに十字路都市テントスの共同体の拠点に顔を出す事。その後は共同体拠点の警備業務を借金の返済が終わるまで続ける事。ただし衣食住は完備との事だ。
これ、破格だよな?
この世界にこんな親切な人がいるのか…………。
俺、騙されてない?
「これで契約完了です」
魔法の契約書に署名をして完了した。それと共に目の前に金貨50枚が置かれる。これは処分奴隷の買い取り資金と当座の面倒を見るために使うための資金だ。
黙って受け取る。
「おっさん。まずはありがとうな」
「仲介しただけだから気にするな。とはいっても金貨50枚を稼ぐのは結構大変だぞ」
「わかってる。責任もって面倒見るよ。ところで、この十字路都市テントスってどれくらい日数がかかるんだ?」
処分奴隷の売られていた場所までの道行きで十字路都市テントスまでのルートをいくつか教えてもらう。
そして処分奴隷の子らは誰にも買われずに道端に座り込んだままだった。
「そう簡単に売れないさ。破棄が決まるまで猶予があったのに売れなかった。あの痩せ具合だと破棄が決まって二か月は経過している。売れなければ近々闘技場の怪物の餌だろうな」
そう口にするおっさんに奴隷の事をもう少し教えてもらう事にした。
まず、奴隷の扱いは主人の品格を表す。奴隷の扱いが悪い奴は周囲からの評価もかなり悪くなるとの事だ。
技術を学ばせれば財産としての価値が上がる事。それが雑役でもである。専門性のある技術であればなおよし、
奴隷にも賃金を払う必要があり奴隷はそれで自身を買い戻すもよし好きに使ってもよい。奴隷に払う賃金は真面目に働けば10年で自分を買い戻せるくらいの金額が理想とされている。ただし破棄奴隷は買い戻しに正規の金額に計算しなおした後に解呪料として金貨50枚を上乗せする必要がある。衣食住と人頭税は主人に帰する。
奴隷は解放されると自由民となるが、人狩りに攫われて再び奴隷堕ちなんて事もあるので解放するならどこかの組合に所属させておくのが良い。
市民と組合構成員は奴隷にする際に本人の意思が必要になるので安全対策として覚えておくようにとの事であった。
そうこうしているうちに目的の場所に到着した。無事に売れ残っていた。
おっさんが購入の手続きを行い俺は横で説明を聞き適宜疑問を口にしながら四半刻ほどで契約は完了した。
基本的に破棄奴隷の生殺与奪は主人に帰する。主人の品格というやつを気にしないのであれば何をやっても問われないそうだ。そこが普通の奴隷とは違うところだという。
引き取った八人の子らをまずは奇麗にして服とかも揃えないといけないな。先ほど世話になった生活魔術師の元へと戻り【洗濯】をかけてもらい汚れを落とす。それで分かったのは八人ともに女の子であった事だ。
おっさんは「やっぱりか」などと口にする。ゲームとかと違って見た目イコール能力なのでこれは労働力としてはあまり期待できそうもない。
俺はもともと平凡な高校生だったので異世界で何かを出来るほどの知識も技術もない。付与された技能は知識が伴わない。それ故に他人に教えるといった事が出来ない。
そこへ追い打ちがかかる。おっさんだ。
「それじゃここでお別れだ。短い間であったが楽しかったぜ」
「おい、待ってくれよ!」
「お前は破棄奴隷を買った。彼女らの回復のために最低でも一週間は足止めだろ。俺は積荷を捌くのに急いでいる。だからここでお別れだ」
そう口にすると振り返りもせずに去っていく。彼は独立商人であり品物はあまり長期保存の利く商品は仕入れていない。だけどあまりに冷たすぎないか?
あ、これってもしかして詰んだ?
ブックマーク、評価、感想、誤字報告などありがとうございます。
たぶん「幕間-34」まで書いたら次章に突入です。GW中も仕事しつつ親の世話をしている状態なので次章の書き出しは五月半ばくらいからと考えています。




