幕間-30 召喚された者のその後①
その③まであります。
目が覚めたらすべてが終わっていたようだ。
そこは小型平台式魔導騎士輸送騎の狭い居住区であった。
記憶があいまいでどのように事態が推移したのかさっぱりわからない。小型平台式魔導騎士輸送騎の持ち主である独立商人ヘンダーソン氏が言うにはこうだ。
アサディアス王国で暴動が頻発しており、中原の大国であるウィンダリア王国に保護を求めていたそうだ。ところが軍隊が到着したときには王城は崩落しており住民も略奪暴行に狂騒していた。鎮圧した際に狂騒の主犯として生贄が必要になるが、本来の主犯となるはずの黒の勇者は不在であり、なら王家から召喚された客人である真の黒き勇者たる俺が標的となった。冷たい事に高屋君らは先に逃げ出していたので僕の扱いに困ったヘンダーソン氏が俺の装備一式を処分して逃げ出した。
独立商人としての勘とやらで臨検を回避し今は南方の西部域を海沿いの都市国家を転々としている。幸いなのは装備を処分したおかげなのか追手はかかっていない。
いま俺はと言えば用心棒のようなことをやっている。十字路都市テントスへ行って高屋君に文句の一つでも言いたいが何せ金がない。働かざるもの食うべからずだ。召喚の際にいくつかのスキルを付与されたことで多少は戦える。もっとも一流の人間には軽くあしらわれる程度でしかないが。
高屋くんが言うには俺の付与された技能は一定の動きを模倣しているだけで格ゲーの操作と大差がないという。決まった攻撃動作を決まった速度で繰り出すだけだそうだ。ただそれなりに鋭いので格下相手なら十分強いとの事だった。応用できればそこそこ無双できるとの事だ。また初歩の初歩から特訓したとしても付与された技能が呪いのように足かせとなり一定以上の技量にならないそうだ。
完全に雑魚狩り専門である。それでも町のチンピラ程度であれば無双できるくらいには強い。
なら割り切ることにした。雑魚相手に俺tueeeeeeしよう。
ヘンダーソンのおっさんに付き合い南方西部域の沿岸でしか手に入らない物を買い込み中原で売りさばく為に今日も奔走していた。
そんなおっさんとの二人旅が続き気が付けば国を出て二週間ほどが経過した。
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南方の北西部域の港湾都市エンダという町に来た。南方は都市国家のが多く大きな町から15サーグも離れるともう別の都市国家となる事も多い。
この地域の食事は長粒米を使った丼もの主流だ。肉か魚か煮込みをかけて食べる。夜は寝るだけなので簡単なつまみ程度のものしか出ない。酒は熟成されていないこともあって酒精は低く現地人は水代りに呑んでいる。生水は飲めないので煮沸した水が高級品扱いだそうだ。食事の味付けは悪くないが日本に居た頃なら金を払って食べたいかといえば微妙なレベルである。
取り合えず遅めの昼食を取り終えるとおっさんとふたりで不衛生な街中をブラブラと歩いていると汚物まみれの汚い街路に薄汚い子供が並べられていた。年齢は10歳前後だろうか? その数は八人。
全員が首輪を嵌められ鎖で繋がれており目の前を馬車が走り抜けるたびに汚物が跳ね子供たちを汚していく。
あれが奴隷と言う奴だろうか。
あまりにも酷い扱いに怒鳴り込もうかと思ったのだが隣を歩いていたヘンダーソン氏に肩を掴まれ止められる。
「あの子らは奴隷は奴隷でも処分奴隷と言うやつだ」
何らかの理由で契約が進まず赤字が確定したので原価割れ覚悟で処分価格で放出する奴隷の事を処分奴隷と言うそうだ。
本来は奴隷を見れば主人の品格が分かると言われており貧乏するくらいなら良い主人の奴隷になった方がマシだとさえ言われている。法律としての人権はないが契約外の事を強要する事も出来ないからだ。様々な税も免除される。衣食住にも困らない。よい主人は奴隷の性能維持に気を使うからだ。
おっさんの話だと平民以上の生活をおくる奴隷も居るそうだ。
「悪いが俺は買わないぞ」
頼み込もうかと思ったらおっさんに先に封じられてしまった。だが続きがあった。
「お前さんが買って面倒見れるなら…………買うといい」
おっさんは俺が買えるほどの金を持っていないことを承知でそんな事を口にする。
処分奴隷らには値札が付いており価格は一番高い子で金貨5枚だ。子供は労働力としては半人前なので元々価格は安いとの事だ。ただ破棄されるという事は何らかの問題点を抱えているという事になる。人種、性別、容姿、病気、障害などだ。
繋がれている子らは薄汚れているだけでなくやせ細っていて性別が分からない。
8人全てを引き取る場合は金貨15枚が必要になる。平均的な独身男子の稼ぎの年収以上だ。雇われたばかりの俺の財布で自由に使える金額は金貨一枚もない。
「先に聞いておくが、全員引き取って何処で育てる気だ?」
「え、一緒に――――」
「あの狭い居住区でか? 馬鹿を言うな」
食い気味に言われるまで何とか目の前の可哀想な子らを救いたいとか思っていたけど現実問題としてあの狭い居住区で大人二人と子供八人で生活するのは無理だ。しかもあの瘦せ具合からするとしばらくは体力回復に努めなければならないだろう。
今の俺が養えるのはおっさんに土下座して金を借りてもせいぜい誰か一人くらいだろう。誰か一人だけを選ぶとか俺には無理だ。
なら全員見捨てるか? 誰かを選んだとしても選ばれなかった七人のその後を想像すると…………。
俺は不衛生極まる街路に土下座し額に汚れが付くのも構わず頼み込んだ。
「おっさん。必ず返すから金を貸してくれ!」
しかし返事が返ってこない。目の前にあるおっさんの靴も舐めた方が良いのだろうか?
「みっともないからやめろ。とりあえず離れるぞ」
そういうと離れていこうとする。恥も外聞も捨て俺はその足にしがみつく。程なくして溜息を洩らすとおっさんはこう口にした。
「手持ちがないんだよ。とりあえず資金を用意するにもここじゃどうにもならんから離せ」
礼を言って立ち上がると自分が酷く汚れている事に気が付いた。
「取りあえず生活魔術師を探して汚れを落とそう。その恰好じゃどこにも入れてもらえないぞ」
そう言っておっさんは笑った。周囲の人らがつられて笑う。俺は周りに人がいる事すら忘れていたようだ。今になって羞恥心で顔が赤くなる。
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