幕間-28
その日の夜空は雲に覆われていた。見下ろす王都は街灯もケチるほどに窮困しており主門側の篝火を除けばほとんど暗闇である。
つい先ほどまで暴徒と化した住人と衛兵隊が激突しており大地母神の聖職者らが間に入り仲裁し現在は炊き出しを行っている。
そんな暗い王都の外を巨躯が滑るように静かに進んでいく。古代の技術を復元し復活させた中型魔導艦と呼ばれる最も技術が優れた中原でも数隻しか存在しない万能素子を動力とし浮上して滑るように移動する陸上艦だ。こんな地でお目に掛かれるものではない。
意図してなのか艦名の記載はない。王城から2.5サーグほど離れた位置で停船すると上甲板に一抱えもある大きな箱を持った革の防具を纏った兵士らであった。甲板端に整列すると箱を開け中身を組み立てていく。
一限して完成したそれは1.25サートになる金属製の槍、ではなく一般的に対巨獣長尺加速投射器と呼ばれる太古の銃器であった。
巨大な弾頭を装填し伏せ打ちの要領で指揮官の号令と共に僅かに時間差を置いて引金を引いていく。
殆ど無音で重さ12グローの特殊弾頭が音速の30倍まで加速され主城と主館を打ち抜いていく。古い石造りの建造物は崩れ落ちる。
射手は無言で得物を片付け船内へと戻っていく。指揮官らしき人物も成果を確認せず中型魔導艦は静かに去っていく。
それを何処からか覗いている存在には気が付かずに。
▲△▲△▲△▲△▲△▲
「――――以上が南方での出来事の報告になります」
執務室でふんぞり返って座っている偉丈夫は手をひらひらとさせ報告者に退出を促す。
「では、失礼しました」
報告者である半森霊族は軽く会釈すると静かに部屋を出る。
「この忙しい時にあの国は…………」
偉丈夫の口調はややイラつきがあった。現在進行形で終末戦争と称される異界からの侵攻が始まっている状態だけにそっちに注力しろと言いたいのだ。
「でも、ある意味間違っていないでしょう。中原の安寧を思えば他の地域を生贄に捧げつつ美味しい思いをしたとも取れるでしょ」
偉丈夫と美丈夫は報告書を読み進めていく。その内容が事後処理に至ると美丈夫は口を開く。
「しかし自分たちで裏からボロボロにしておき、関係者を始末してから親切心を装って保護下に納めるという手口はなかなか見事では?」
偉丈夫の胡乱げな視線に物怖じせずに美丈夫がそう答える。
「南方利権は美味しいだろうが王太子らしくない」
王太子の為人をよく知るだけに偉丈夫には違和感を覚えるのだ。
「それがどうも王太子は無関係なようですよ」
「そうなのか? なら誰だと思う?」
「…………そうですね。察してると思いますが第二王子でしょう。差し詰め今代の継承権を放棄する代わりに新領を自分に治めさせろと言ったところでしょうか。何せ中央から遠い地で好き放題にやりやすいうえに南方利権美味しいですしね。あの第二王子にそんな知恵はないでしょうから恐らくは第二王子の嫁の父親が裏で糸を引いているのでしょう」
偉丈夫の問いに思案後に美丈夫が返す。
「樹もつまらない事に利用されて災難だったな」
偉丈夫が一度言葉を切りこう続ける。
「…………何か援助してやるか」
「それならフォーコンを派遣しては?」
「フォーコンはかつての御子柴隼人ではないし、俺としても使い勝手が良い駒は手元に置いておきたい」
「なら、彼の組織から人を派遣してもらいますか?」
美丈夫の意見を偉丈夫は暫し悩むも別の意見を出す。
「それもいいが、…………樹やハーンが確かアレを欲しがっていたな。それにしよう」
「では、アレをそれとなく入手できるように手配しますよ」
そう言うと美丈夫は執務室から出ていく。
今回の件でウィンダリア王国は南回り航路の南端拠点を手にいれただけでなく香辛料と砂糖の一大生産拠点を手に入れた事になる。アサディアス王国の王都の混乱状況などは直接見た信用度の高い冒険者、この場合は樹らの事だ。裏事情を知らない彼らから現状が報告される。
ウィンダリア王国は荒廃が止められないアサディアス王国からの要請で治安維持部隊を派遣したが間に合わず王族や高位貴族は住民の手で処刑された後であった。そんな筋書きだろう。
「しかし、組合の調査を潜り抜けて指名依頼に漕ぎつけた…………誰か供与を受けたのが居るのか」
「…………さて、俺の可愛い弟子を都合よく利用したツケは高いという事を教えてやるか」
そう呟くと立ち上がるとそのまま姿を消す。
ブックマーク、評価、感想、誤字報告などありがとうございます。
ルビ、固有名詞などを変更しています。




