456話 これからの方針
「何が金等級だ。何が【天位】だ。何の力もないじゃないか…………」
内壁区を出て南外壁区の新規開発地区をトボトボと和花と歩いていく。感情の抑制が出来ず思わず口についてしまった。僕らは何も知らずに謀略の処理に駆り出された間抜けだった。
移動が速く金等級の高い冒険者という事で選ばれ現地の惨状を証言し事態の対処に貢献したという筋書きになったらしい。口止め料も含めて報酬は凄かったけど利用された感が強すぎて悔しいやら情けないやらである。
気休めであったが支部長は帰り際に僕らにこう言った。
「すぐにでも迷宮調査に赴け。そうすれば今後は利用しようと指名依頼を出そうにも実行できる人材が連絡不能という理由で連中も諦める。このままだといい様に使い潰されるだけだぞ。…………それに稼げれば後ろ盾になってくれる組織がいる事も忘れるなよ」
支部長のいう事はその通りだと思った。とにかくこのモヤモヤした気分を何らかの形で払拭しなければ前に進めない気がする。
気が付けば陽も落ちており燃料式街灯が周囲を照らしていた。どうやってここまで歩いてきたのか記憶がないが和花が僕の手を握り珍しく先を歩いている事から引っ張ってきてもらったようである。
「和花。ありがとう。もう大丈夫だよ」
「どう致しまして。話しかけても生返事しか返さないし最初はどうしようかと思ったよ」
そう言うと僕と同じ位置に戻り手を離したと思ったら僕の左腕に腕を絡めてきた。
「それで、決めたの?」
「うん。決めた。暫く雲隠れしよう」
支部長の助言通り迷宮攻略で音信不通を装うつもりだ。ただその前に共同体の面子をどうするか考えなければいけない。
細かい事情を説明出来ない。出来れば職人や戦闘員は連れていきたい。彼らは守秘義務の関係で契約奴隷の立場となっている。国がその気になれば、適当な罪状を以って共同体の資産として没収する事が出来るのだ。
その後は【念話】を掛けなおして和花と脳内で意見を交わしつつ共同体の拠点に戻ってこれたのは十一の刻を過ぎていた。
因みに食事は街路に出店している露店で買いました。
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翌日、教導業務の冒険者らが訓練所へと向かったのを合図に事務方や使用人などを除いた全メンバーを招集した。最も運搬業務や巡回業務で戻ってきていない面子も居たけど【一報】の魔術で必要事項のみ伝達した。
「なんか重要な話だって?」
事前の打ち合わせ通りに健司から話を振ってもらう。
「うん。共同体の今後の活動方針についてね――――」
そこで僕は今後の方針として現在各種業務で頑張っている面子を迷宮攻略などに回して代わりに燻っている黒鉄等級あたりを引き込んで運搬業務と巡回業務の訓練を行い夏の終わりを目途に一任してしまおうかと考えていると告げた。
例の島主で柄ある旧魔法帝国最後の魔導王であり死を超越せし者のアルケイン・マクドガル・デ・ラ・エスパニア陛下との約定を果たすべく島に点在する迷宮をすべて踏破する。
もっともこれには和花から反対された。「つい先日いい様に使われたばかりじゃないの」と。しかし報酬の先渡しもされておりそれらを利用してる身としては蔑ろには出来ない。それに相手の存在は上位の超越者でありある意味で大国を相手するより厄介である。
思うにチート物の世界の住人が一見無害そうなチート主人公に感じる心境だろうか? 根底にあるのは強大な力を持つ者に対する畏怖?
それに迷宮を踏破すれば利益もある。
例の島の開拓と複数同時の迷宮踏破を行う。移住も視野に置くことも説明する。ただ物資面で十字路都市テントスは優秀なのでここの拠点は維持したままとすることも伝えた。
各位には来るべき日まで訓練と業務を精励して欲しいと述べて解散する。
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「――――どうだろうか?」
「よろしいのではないでしょうか? 拙僧は事務方や使用人を纏めて事業を推し進めておきますよ。商業の神と法の神の二柱に誓って不正は行いませんのでご安心を」
そう言ってオラクル・メイザン司教は恭しく礼をする。
表向きは僕らは迷宮踏破に不在だが運搬業務と巡回業務と教導業務は熟す。更に共同体の拠点を改装して宿場ないし冒険者向けの長期滞在施設として運営する話である。表の部門の業務の責任者に任命したのである。
事情に関しては話せる範囲で話した。流石というべきかある程度察したようで、「それは大変ですな」と苦笑いを浮かべていたけど。
取り合えず訓練などはみんなに任せるとして余計なことを押し付けられる前に僕らは以前から目をつけていた遺跡の攻略を行う為に準備を始めた。
ブックマーク、評価、感想、誤字報告などありがとうございます。
ここで予約投稿分は終わりです。
投稿される頃には毎年恒例のGW前のデスマーチ+母親の介護でたぶん余裕がないのですが、ボチボチと幕間を数話あげてから新章に入る予定です。
GW明けくらいから新章投稿できると良いなとか思っています。
流行り要素ほぼありませんが、今後も宜しくお願いします。




