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455話 後処理⑤

 一番奥の牢屋に日本(ひのもと)が転がされていた。僕らが近づくと床を這いながら、「なんでお前らがソコで俺がココに居なければならない! 不平等だろ!」などと叫んでいる。瑞穂(みずほ)によって下半身不随にされたのは回復されていないようだ。

「おい、聞いているのか! なんで神に選ばれた俺がこんな目にあうんだ! 俺は――――」

 その後も一限(五分)ほど日本(ひのもと)の戯言は続く。流石に興奮しすぎたのか息を切らせた。荒い呼吸音だけが牢屋内に響く。


 人々には勝手な価値基準で平等を押し付けるが自身は神によって選ばれた存在なのでノーカンという事らしい。

 同郷の者だし出来ればとは思ったけどこれは見捨てるかと和花(のどか)と頷きあう。

「この人殺しめ! 世の貧しい人々を差し置いて恵まれた生を謳歌しただけでも許しがたいというのに人殺しとか万死に値する! 今すぐ死ね! すぐ死ね!」

 呼吸が整ったのか再び叫び始めた。目が狂気に満ちていて正直怖い。

「ハァ…………。確かに戦いの中に身を置いているからそういう事もあるよね。僕ら武家の男は戦時は前線に立つのが基本と教えられているし何度も生死の狭間を彷徨った事か…………。でも、お前のように神の名を騙って弱者を一方的に嬲り殺しにした記憶はないなぁ」

 アサディアス王国の国王とか無駄に四肢を折られていたしあの体格では碌に戦闘は出来ないであろうというのにだ。


「こいつ、どうなるんです?」

 こいつの罪状の多くは他国で中原(ダール)民族の商人(マークアンテ)らを殺したことのはずである。ウィンダリア王国の方では裁けないと思うのだけど…………。最も捕縛の依頼は合同依頼で商人組合(マークアンテギルド)や他の大商人(レブリアンテ)たちだ。条件が揃えば私刑が認められているので生殺与奪は依頼者たちに帰する。

「アサディアス王国に強制送還後に公開処刑ですか?」

 王族に手を上げた以上は庇い立ての余地すらない。ところが支部長から意外な答えが返ってきた。


「こいつはウィンダリア王国の直轄地で数々の犯行を犯している。それどころか城伯(バーグラフ)一家を殺めている。普通にウィンダリア王国の国法に基づいて処刑だ」


「「は?」」

 今の僕と和花(のどか)は間抜けな面をしていただろう。聞き間違いだろうか?

『聞き間違い? 日本(ひのもと)の犯行は結構前からよね? それに私たちが現地に着いたときはまだアサディアス王国だったよね?』

『そのはずなんだけど嘘や冗談の類でもないみたいだ』

 和花(のどか)も同じように思ったのか僕に聞き返してきた。ただ【虚偽看破(ファゾム・ライ)】さんはきちんと仕事をしていて、『ウィンダリア王国の直轄地で数々の犯行を犯している』という部分に嘘ないし真実と異なる言い回しをしていると伝わる。


「アサディアス王国は春の中月(5月頃)後週(下旬)に正式にウィンダリア王国に編入された…………事になっている」

 いま、明らかに虚言と判る事を言った。恐らくは書類の日付を操作したのだろう。

 そう言えばアルマが以前にウィンダリア王国は侵略戦争はしたことがないと言っていた。にも拘らず中原(セントルム)以外に大陸中に飛び地が存在するのが答えですと言っていたのだ。


 自身にとって有益な土地を謀略を以って奪い取っていただけなのだろう。


「このことは依頼人たちは?」

「すでに知っている。商人組合(マークアンテギルド)大商人(レブリアンテ)らも利益優先で目を瞑ることにした」


 支部長はそう言うと頭を振り、「嘆かわしい」と呟いた。日本(ひのもと)が相変わらず喚いているがもう僕には哀れなピエロにしか見えなかった。こいつは謀略の為に恐らく利用されたのだ。


 その後は執務室に戻り一通りの話を聞き(おおよ)そ僕の想像通りの内容であったことを確認した。これは魔法の契約書(コントラート)で口封じもしたくなる。うっかり口を滑らせたら共同体(クラン)ごと潰されるだろう。


 報酬額をすべて共同体(クラン)の口座に振り込んでもらい僕らは帰路に就く。一頭立て二輪幌馬車(カブリオレ)を呼ぶ気も起きなくトボトボと。


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