450話
納刀し周囲を見回す。
九重は既にアルマから治癒の奇跡を受けていている。瑞穂は既に解呪が終わっており僕に蹴られた打撲を和花が癒している。
心なしか怒ってる?
ま、緊急事態とは言え蹴り飛ばされたらそりゃ怒るよね。そこはきちんと謝っておく。ただ機嫌が悪かったのは闇司祭の術中に嵌った自分自身にであったようだ。
さて、帰り支度をするかという事で僕は[魔法の鞄]から【魔化】された拳大の石を一つ床に投じ詠唱に入る。
「綴る、付与、第三階梯、付の位、触媒、従僕、石像、発動、【石の従者】」
詠唱が完了しいつも通り拳大の石が小柄な人型になるのはいつ見ても不思議だ。
僕は石の従者に覗き魔と日本を抱えさせる。転がってる陛下は運べないし置いて行こう。あとは…………。
床に転がっている頭を持ち上げる。闇司祭の表情は狂気に満ちた笑みを浮かべていた。
気味が悪いので[魔法の鞄]に放り込みたかったのだけど、何らかの形でこの闇司祭から証言を取る関係でしまえないのだ。
死体と言えども[魔法の鞄]に入れてしまうと魂の紐づけが切れる所謂離魂状態となり輪廻の渦に帰ってしまうのだ。
ただし身体は置いて行く。アルマが言うには頭部さえあれば問題ないとの事だからだ。意識を失っている覗き魔に闇司祭の頭を持たせておく。
闇司祭や日本の装備を回収して僕らは元来た道を戻って城外へと歩き始まる。主館を出たあたりで気になることがあり誰ともなしに質問する。
「そう言えば闇司祭との戦闘中に急に調子が悪くなったんだけど誰か理由を説明できる?」
「あ、私もなんか気力がなくなるというのか…………」
僕らの後ろにいた和花も同じだったようだ。九重もアルマも同意しているので全員というとになる。
「今にして思えば闇司祭のあれが名もなき狂気の神の信者が使う【狂気の踊り】だったんだと思う」
知識豊富なアルマを以てしても小神の中でもかなり神格の低い神の信徒だけが使える特殊な闇の奇跡まではすぐには気が付かなかったらしい。
「詠唱がなかった気がするけど?」
そう疑問を口にする。
「祝詞は魔術のような学術ではないので定型文は存在しないの。極端な話だと奇跡の名を口にすれば願いは聞き届けられのよ」
今回の【狂気の踊り】は踊ること自体が祝詞と奇跡の名に相当するのだと。
「それは判ったけど、それじゃなんで省略しないの?」
和花が問う。それは僕も思ったのだ。使い勝手に制限があるけど結構便利だと思うのだけど。
「理由は二つあるの。奇跡の過程に神への祈りを口にする事が重要であるのと刷り込まれる事。もうひとつは非常に効率が悪く呪的資源に過度の余裕があるとき以外は使わないの」
そして聖職者は術者の中でも呪的資源が大食いである。
「そのあたりは精霊魔法と似た感じか」
話を聞いていた九重がそう口にした。精霊は最下級の精霊を除けば人並みの知性を有しているのだが、創作物にあるイメージで魔法を使うという事が出来ない。イメージを受け取る精霊が人とは異なる異質な精神構造故に正しく反映されないからだ。ほぼ失敗するそうだ。
無詠唱っぽい事は可能だけど、心の中で念じているだけで魔術師のように瞬時に発動するわけではない事と念じている最中は無防備になる事で実戦向きではないので使わないとの事だ。
途中で倒れ伏す冒険者らの装備を回収し斜路を下ると無残な姿で擱座した魔導騎士と魔導従士が転がっておりフリューゲル高導師と竜人族のガナンが座り込んで談笑していた。
「ある人らってもしかして私ら5人より強い? 私ら要らない子?」
目の前の光景を見てやや呆れたように和花が冗談とも取れないことを言う。
これに関しては相性としか言いようがない。
ブックマーク、評価、感想、誤字報告などありがとうございます。




