445話 黒の魔王①
「日本か…………」
出来れば人違いであってくれと思っていたけど何が彼をそうさせたのであろうか?
その日本であるがアルドン二世陛下の髪を掴んで引き摺ってきたのだ。アルドン二世陛下の四肢はあり得ない方向に曲がっておりその表情は涙と鼻水で見るも無残だ。
「人は平等でなければならない。貴様らも粛清だ!」
僕らの存在に気が付いた日本はそう叫ぶとありえないことにアルドン陛下を投げつけてきたのだ。
贅沢三昧で恰幅の良すぎる陛下を受け止める事は僕らでは無理だ。
「散開」
僕の指示で全員が周囲に散る。僕らのいる位置は吹き抜けの巨大な玄関ホールを上がった場所であり戦闘するには狭すぎる。九重と瑞穂は一階へと飛び降り和花とアルマは走り下りる。命じた僕は殿なので僅かに位置を変え二階に残る。アルドン陛下はそんな僕を掠めるようにして飛んでいきそのまま一階へと落ちていった。
陛下の行方を目で追っていた隙に日本は人間離れした速度で距離を詰めてきた。
「平等の名のもとに贅沢を享受した者は死ね!」
あっと思った時には僕の右手は取られており関節を極めに掛かられていた。迷うことなく無詠唱の【瞬き移動】で緊急回避を試みる。
一瞬で2サートほど離れた大階段の中間踊り場に移動した僕に驚いたようだ。
「逃げるな卑怯者! 贅沢を享受した者の運命を受け入れろ!」
そう叫ぶと矢のようにまっすぐに飛び掛かってきた。白き王もそうであったが能力任せの単純な動きだ。【飃眼】で見切り切り払う――――。
筈であった。
慣性を無視した変態的機動で身体を捻り僕の一振りを避けたのだ。流石にこれは予想外であった。日本は着地と同時に攻撃後の僅かな、それこそ瞬きほどの硬直中の僕の右腕を掴むと引きよせつつ軸足を刈る。
倒れ様に無詠唱の【瞬き移動】で距離を取り仕切り直しを図るも【瞬き移動】の欠点は発動時の姿勢のまま移動するので僕はそのまま倒れこんでしまう。
「天誅ぅぅぅぅぅぅぅ!!」
倒れた僕めがけて走り寄る。
そこへ瑞穂が音もなく近づき[透過の刃]を一閃。だがその一撃を変態的機動で避けると右腕を掴むと飛びつき腕十字に持ち込む。
瑞穂も無詠唱の【瞬き移動】で辛くもこれを逃れるも体勢を崩してしまう。
しかし絶好の機会であるにもかかわらず日本は追撃しなかった。それはタイミングを合わせた和花の投射した【魔力撃】その身に受けたからだ。距離が離れていたこともあり威力は減衰しほとんど効果がないように見えるが追撃を止める程度には効いたようである。
今の動きで日本の弱点が見えたような気がした。
「お前も制裁だぁぁぁぁ」
次の標的を和花に定め飛び掛かる。和花の方も迎撃として無詠唱で放てる【魔力撃】を連発するも日本が腕を振ると効果が霧散する。これは[呪文貪喰の指輪]の効果だ。
魔法に関しては不意打ち以外では効果は期待できそうもない。
矢のように飛び込みつつ組み付こうとした矢先の事だ。見えない壁に激突しもんどりうって倒れる。
和花に預けてある[力場の腕輪]による障壁に激突したのだ。
日本は痛みに耐えつつよろよろと起き上がり次の獲物を探す。
こちらの近接攻撃は変態的機動で避けられ自身に向けられた魔法は[呪文貪喰の指輪]の効果で打ち消される。さらに奥の手で[高防御圏の指輪]を持つ。ただし間接的で尚且つ不意であれば魔法の効果の影響は受ける。また認識の外からの魔法に対しても無防備のようだ。わずかな時間で頭を回転させ何か良い設置型の魔法はないかと思案する。
しかし条件が合わず名案が出ない。[高防御圏の指輪]も[呪文貪喰の指輪]も永久的に効果があるわけではない。脳筋思考だけど飽和攻撃で一時的に機能停止させるしかダメそうだ。
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