444話 覗き魔撲滅
「そこをどうするかなんだよね」
今回の目的は知り合いかもしれないテロリストを捕縛するつもりで中原から来てみたらなんか変な奴に絡まれたと言ったところか。
ひとしきり悩んだ末に出した答えはとりあえず放置しようであった。情報が足りなすぎる。憶測に憶測を重ねても正解から遠ざかっていく気がするからだ。
「しかし黒の勇者はまだいるのか?」
「確かに。だけど出口はここだけだし【転移】でも出来ない限りは大丈夫でしょ」
九重の問いに楽観的かなと思いつつ答えて僕らは主館の方へと足を向ける。
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「これは酷いな」
足を踏み入れた煉瓦造りの主館の玄関ホールは数多くの使用人の死体が転がっていた。
生存者はいないだろうなと思いつつ確認していくと一人だけ虫の息の使用人の男性がいた。
「アルマ。生存者だ!」
僕の叫びにアルマがすぐにやってきて神へと祈る。
「法の神よ。この者の傷を癒し死の淵より戻したまえ。【致命傷治療」
祈りは届き虫の息だった使用人の男性を淡い光が包み込み時間が巻き戻るかのように傷が治っていく。
傷は癒えたが流石にすぐには意識が戻らないようだ。状況を聞きたかったけど諦めよう。
「瑞穂。どんな感じ?」
周囲を調べて回っていた瑞穂を呼んで報告してもらう。
「傷は殆どが切り傷。使った武器は軽量の曲刀系の武器。切り口が割り裂く感じじゃないので間違いないと思う。ついでに双剣使い。技量は達人の領域」
僕自身も手近な死体を確認してみると確かに見事な一太刀で命を奪っている。これだけの人数を切り捨てるとなると手にしている得物は間違いなく魔法の工芸品に違いない。
こちらの世界で双剣使い。しかも曲刀だとすると…………。いわゆる踊り娘の剣舞を用いた武技があったなぁ…………。
「たしか、[艶舞剣撃]だったっけ?」
「うん。こんな感じ」
何気なく零した独り言であったがそれを瑞穂が拾ったようで頷くと小剣を二振り抜くとリズミカルで華麗なステップで踊りだした。
確かに武器こそ違えど剣舞っぽい。
「どこで覚えたの?」
「教本で読んだ」
一瞬何言ってるんだと思うのだけど教本とは師匠が置いて行った武技の指南書の事だ。挿絵と文章のみで構成されたその教本は最新のスポーツ科学や医学並みに理論化されており、技の詳細や得物の使い方、体勢、足さばきまでが記されており師匠曰く読めばできるであった。実際には必要な筋力、体幹、間合、呼吸など鍛錬する必要があるがそれすら必要な情報が書き込まれている。
だからといって読んだから出来たはちょっと凹むなぁ…………。
しかしこれから対決するかもしれない人物の技を実際に目にする機会があったのは有利に働きそうだ。
「ありがとうな」
そう言って瑞穂の頭を撫でる。撫でつつふと思った。もう頭を撫でて喜ぶような年齢でもないのかと。
しかし満更でもなさそうな表情をしているので気にするのはやめよう。
僕らはその後死体を並べなおしアルマの弔いの祈りを終えた後に玄関ホールを出て二階へと向かう。この城の構造は一階は水回りや使用人の作業スペースや住居が占める。二階が客間や館の主人らの居室となる。そして屋根裏部屋は倉庫だろう。
王族を狙うなら二階へ行くよねという事で大階段を登り始めると気が付いた。
視線を感じる。
また【魔術師の眼】だ。
「瑞穂。アレなんとかなる?」
正直って覗き魔の存在が鬱陶しいのでこの際に排除してしまおうと思ったのだ。
「任せて」
瑞穂は頷くと音もたてずに階段を降り大階段の陰に潜り込む。覗き魔の視野から消えるためだ。いくら気配が殺せるといっても常時見られている状態では流石に効果は低い。
程なくして絶叫が上がる。覗き魔の視線をきったあとに気配を殺し【姿隠し】を使って【魔術師の眼】の視野の背後まで移動する。
そこからは一瞬だ。[透過の刃]を宙に浮く【魔術師の眼】を串刺しにしたのだ。
聞こえてきた絶叫は術者が疑似的に体感した痛みであろう。瑞穂は[透過の刃]を鞘に納めると術者を確保すべく走り出す。どうやら一階の使用人の作業スペースに潜んでいるらしい。
一階に戻り使用人の作業スペースである台所に魔術師は居た。ただし瑞穂によって頭部に[透過の刃]を突き刺されている状態であったけど。絵面がなんとも…………。
[透過の刃]によって気力を奪われ気絶しているので玄関ホールまで引き摺ってきてそのまま放置する事にした。どうせしばらく目が覚める事はない。
気を取り直して二階へと上がると右手方向から足音と擦過音が聞こえてくる。程なくして【光源】の明かりに照らされた人物は血走った眼をしたよく知る人物であった。
「日本か…………」
出来れば人違いであってくれと思っていたけど何が彼をそうさせたのであろうか?
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