443話 裏に居るのは誰?②
僕が別名義ではあったけど王太子殿下の再三のお誘いを断ったことが原因だろう。大陸最大の巨大国家の次期国王だけに自尊心もそれなりに巨大で平民如きが自分の誘いを断るとか不敬であるとか内心思っていたのをどこかで子飼いの貴族に洩らしたのであろう。
「それにしたってここまでやるか?」
九重が文句を言う。同意だけどこれっばっかりは価値観の違いである。他所から来た僕らが合わせるべきだったかもしれない。
しかしそうは言っても小神とは言え名もなき狂気の神は邪教認定されており犯罪者扱いである。
あれこれと意見は出るもののコレだというのがなく話が纏まらなくなった時だ。
「要するにこれって自尊心が肥大化した貴族の嫌がらせであって…………アルマ、顔色悪いけどまさか、契約事項に違反したの?」
和花に指摘されてようやく気が付いたけど確かに顔色も悪く時折表情を歪めている。配慮が足りないな。
魔法の契約書や奇跡の【使命】や精神魔術の【禁止命令】などもだけど違反をすると耐え難い頭痛に襲われる。ちなみに僕は気絶したので周囲に気づかれずに堪えていたことが如何に凄い事か理解できた。
あれは根性でなんとかなるとかいうレベルを超えている。
「最後まで言わせて」
心配する僕らを手で制すると話を続ける。
「十字路都市テントスの内壁区画の地下の秘密設備に入れる扉を開けるのは王族のみなの」
「ところでウィンダリア王国の王族ってどこまでを指すんだ?」
僕が口にする前に九重が疑問を口にした。それなりに歴史がある大国の王族、この場合は血統はそれなりに人数になりうると思うのだけどどこまでが適用範囲なのだろうか?
「恐らくは、末席でも、適用範囲、だと……」
かなり苦しそうに何度か言葉をきりながらも会話を続けてくれる。
まず自分たちの行動に合わせて移動できる手段、この場合は【転移】が使える高導師級の魔術師を雇える財力。賢者の学院の魔術師はまず動かないので元冒険者か貴族お抱えの魔術師なのは確実だ。共同体の拠点が王家直轄地の十字路都市テントスなので宮中伯か城伯あたりが怪しい。
長い世襲の中で多くの貴族たちの考えは、庶民や自由民は誰しもが貴族に憧れ貴族になりたがっていると本気で思っているのだとか。
そんな中で肩書きが世界最大の国家ウィンダリア王国の王太子が非公式とは言え臣下にと誘い、それを数度にわたって断る僕は異物に映るらしい。彼らの価値観としては最高の栄誉であり這いつくばって賜るどころか蹴るとか不敬罪か実は良からぬことを考えているのではと邪推し忠誠心が暴走した結果が今の状況なのではというのがアルマの意見であった。
「「さっぱりわからん」」
思わず吐き捨てたら九重と被ってしまった。
価値観の違いは理解した。当代貴族である宮中伯か城伯らからすると、うらやまけしからんという心境らしいのは頭では理解した。
言いたくないけど貴族なんてブラック会社の中間管理職と同じようなもんだと僕は思っている。
上位者の胸先三寸で首が飛ぶかもしれない地位には正直って好き好んでなりたいとは思えないのだ。
「もう大丈夫。苦痛は去ったわ」
本人の申告通り顔色も戻ってきており穏やかな笑みを浮かべている。
「ホントに無理させてゴメン」
「私は大丈夫。樹さんが都市部に拠点を持ちたがらなかった理由ってこういう事を想定していたのでしょ」
「ううん。仕方ない事だから。それにある日突然問題が発生するよりはマシでしょ」
無理させたことを詫びると笑みを浮かべて返してくれたけどあらためて貴族階級は油断できないなという事だけは判った。しかも自分たちは悪いことをしているという自覚がないだけに厄介だ。
因みにアルマ曰く準男爵なら有難がる独立商人は居るという。箔が付くことで商売の幅が広がるのだそうだ。
後は冒険者には騎士爵や臣下騎士はそれなりに人気があるという。何故なら俸給で将来安泰なのだそうだ。
「で、どうやって出し抜く?」
話が脱線していたのを九重が引き戻す。
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