442話 裏に居るのは誰?①
「ところで裏で糸を引いている人らが居ると仮定して彼らは僕らをどうしたいんだと思う?」
僕は唐突にそんな質問を皆に投げる。
「同業者の嫉妬からの凶行?」
まず最初に口火を切ったのは和花であった。本人もこれが正解だとは思っていないのは口ぶりで分かる。
「18歳になろうという小僧が金等級になったことに対しての嫉妬だとしてもスケールが大きすぎるし、これだけの事が出来るなら僕らに嫉妬する必要もないと思うよ」
「たしか指名依頼を失敗させて評判を落としつつ罰則で痛い目見せようっていうには臨機応変な気もするね。そもそもの話だけど、この依頼の失敗の条件って何?」
「それがないんだよね…………」
和花の問いに僕はそう答えて[魔法の鞄]から依頼書を取り出し皆に見せる。
「…………確かにないわね」
和花が内容を確認した後にアルマに手渡す。アルマの方でも問題ない事を確認してもらう。
「特に書類の不備は見当たらないわね」
そう言うと依頼書を僕へと返す。
この依頼は黒の勇者と呼ばれるテロリストの捕縛ないし討伐を行う事だけなのだ。討伐の際に発生した被害はマイナス査定にはならない。
極端な話をいえば【流星群】でこの町を灰燼と化してもマイナス評価とはならない。もっとも悪評はつくだろうけど。
僕らが達成困難と判断し依頼をキャンセルした場合は多少の罰則はある。
「裏に居る人はそれを狙っているのか?」
「いや、それにしては規模が大きいし、これだけの事が出来るとなればかなりの資金力とかが必須だよ」
「だよなぁ」
僕の回答に九重が同意して考え込む。
「この件はいくつかのグループが互いをうまく利用してやろうと個別に動いたが為に相互に干渉しあった結果ではないかと思うの」
「と、言うと?」
「大きく分けると黒の勇者、単なる現状に不満がある住人、この国の王侯貴族、邪教の聖職者の五つかな」
アルマがそこで言葉をきる。
あれ?
「それじゃ僕らを監視してる存在は?」
この国に力を持った魔術師は殆どいない。僕らの監視役に回すとは考えにくい。黒の勇者は単独犯または少数の協力者がいる程度、住人は単なる騒ぎに便乗して略奪とかを試みるだけの存在。そうなると邪教の聖職者って事になりそうだけど…………。
「実はひとつ秘密にしていた事があるの――――」
アルマがそう切り出してから話を始める。
白の王が十字路都市テントスで爆破テロを敢行した前日に【神格降臨】があったなどという騒ぎがあった。
爆破テロで有耶無耶にされたのだけど、実は地下深くで本当に【神格降臨】は行われたのだという。
正確には自身に神格を降臨させる【神格降臨】ではなく生贄に神格を降ろす【献上の儀式】の方だそうだ。
そこで恐らくは祭器が作られたと各神殿の司教級の聖職者らの間で噂になっているという。
アルマの話では実際に祭器は作られ、そしてそれはこの町にあると断言した。
「その理由は?」
「この町に来た際に波動を感じ取ったの」
魔術師が魔力を視認できるように。
精霊使いは精霊を視認できるように。
聖職者は神の波動を感知する事が出来る。
赤の他人であれば疑ったかもしれないけど、アルマが断言するのであれば間違いないのだろう。
「気になったんだけど、どうやって十字路都市テントスの地下に降りるの?」
和花の問いにそう言えばと思っていると、
「これ」
唐突に瑞穂が[魔法の鞄]を漁って一枚の0.25サート四方の上質紙を取り出し広げて見せた。
「これって十字路都市テントス…………よね?」
「うん」
和花の質問に瑞穂が肯首しある一点を指した。
その上質紙にはかなり精密な都市の地図が描かれており、指し示す位置は都市の中心の太守の館であった。
「それが?」
「地下に開かない扉がある」
「瑞穂ちゃん。ありがとうね。それで話を続けるけど、都市の地下施設に入れる人物は特定の血統でなければならないの」
ウィンダリア王国の王家直轄領の地下施設に入るための血統。普通に考えると、
「まさか王家が係わっている?」
「なんか王家に恨みを買うようなことしたのか?」
こっちに戻ってきて日が浅い九重がジロリと僕を見る。
「ないと、思いたいなぁ」
そう答えたものの心当たりはある。
「秘密にしていたという事は言いにくい事情があったんでしょ? アルマはどう考えているの」
和花の問いにアルマは少し考えこむ素振りをしてから、事情に関しては後回しにするけどと前置きしてからこう答えた。
しかし返ってきた答えはこちらの想定とは違った。
「たぶん動機は価値観が異なる人間への恐怖心かな?」
「恐怖心?」
僕ら異世界勢全員の頭上にクエスチョンマークが浮かんだことだろう。
「私は思うに今の状況はある人物の独走かなと思っているの。その人物は身分の高い人物の派閥に属していて恐らくだけど忖度した結果だと思っているの。正直ここまで馬鹿だとは思わなかったんだけど…………」
アルマの話だと貴族社会では割とよくある話で上位者が自分の子飼いの貴族に不満をそれとなく漏らすと子飼いの貴族は勝手に忖度し動き始める事が多々あるそうだ。
不満を漏らした貴族はもちろん命じた訳ではないので犯行が露見しても子飼いの貴族を切り捨てて自分は難を逃れる。なにせ命じた訳ではないのだから。
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