441話 この依頼、おかしくないか?
城門棟と通過し二重跳ね橋を走り抜けると先ほどの衛兵隊の集団に追いついた。僕らが追い付いたことに気が付いた痴女、もとい闇司祭が振り返って叫ぶ。
「せっかく楽しいパーティの途中なんだ。|邪魔するんじゃないよ!《フォースティー・イック》」
何を叫んだかは理解できなかった。恐らく南方語だと思う。
「お前たち、遊んでおあげ」
続けて闇司祭は何やら命じるとひとりで内郭の主城門を走っていく。
流石に練度は不明だけど小隊とぶつかるのは時間と体力の無駄だなと思い最適な魔術で一掃しようと構えると――――。
目の前に[世界樹の長杖]が差し込まれる。
「ここは呪的資源に余裕があるし私がいくよ」
「わかった」
そう言って僕が頷くと和花は目を閉じ普段以上に集中する。
「全てを、開放せよ、綴る、付与、第八階梯、攻の位、暗雲、麻痺、大気、変質、昏倒、範囲、発動。【昏倒の雲】」
詠唱が完了し魔術は正常に発動する。主城門の幅一杯まで効果範囲を拡大した【昏倒の雲】は効果範囲の空気を変質させ衛兵隊らの意識を刈り取っていく。
重なり合うように倒れ伏した彼らは少なくても半刻ほどは意識が戻らない。ただし魔術に抵抗していなければだ。
「抵抗したのは…………いないよね?」
和花の魔力強度はうちの共同体では最も高く普通に考えると抵抗出来るとは考えにくいのだけど油断はできない。ゲームのように成否が分かれば楽なんだけどねぇ。
狸寝入りされている可能性もあるので和花としても大丈夫と断言しにくいのだ。
「もう大丈夫」
その声の方を見れば屈みこんだ瑞穂が[透過の刃]を衛兵の頭部に突き立てているところであった。
一瞬咎めそうになったがよく見れば出血はない。[透過の刃]で攻撃対象を生物の気力とか精神力というものにしたのだろう。
後遺症とかもないはずだし良しとしよう。
「しかしだな…………。いまのこの状況ってなんかおかしくないか?」
「なにがだい?」
「この依頼を受けて俺らがここに到着してすぐにこれだけの騒ぎだろ?」
九重が何を言いたいのかピンときた。
「そうか。普通であれば依頼を受けて十字路都市テントスから急いできても一週間はかかる。九重は依頼者は僕らが【転移】で移動する事を見越してあの時期に指名依頼をだしたと?」
「そうだ。情報伝達にラグがあるこの世界でタイミング良すぎじゃねーか?」
九重の意見は僕も薄々感じていた。ただ決定的な情報不足で確定とするには弱い。
「誰かさんの掌で踊らされてるのは面白くないわね」
和花は不機嫌そうにそう呟く。
「偶然って可能性はないの?」
皆の思考が陰謀論に傾きかけていたのをアルマが待ったをかける。だがそれで一旦冷静になったのが功を奏した。
瑞穂がある一点を注視しており後ろ手で手信号を出していたのに気が付いたのだ。
『12、15』
それだけを繰り返していた。
顔を動かさずに視線だけそちらに動かすと意味が分かった。魔力を視認できる魔術師だからこそ分かった。
【魔術師の眼】か…………。
「みんな黙って聞いてくれ。どうやら覗き魔が居るようだ」
僕は小声で全員に注意を促す。素人ではないのでこれだけ言えば対処法は判っている。揃って何事もなかったかのように主城門をくぐり中庭にでた。
中庭にも衛兵やら使用人の死体が転がっていた。同士討ちにも見える。
さて、右の構造物は主城であり公的機関と王族の公的な居室がある建造物だ。左の主館は王族の私的な生活空間のはずである。どちらへ行くのが正解か。普通に考えると時間的に左の主館が正解だろう。
「普通は王族って主城に住んでいるんじゃないのか?」
「いや、主城の役目は政治の中心であり非常時は最後の籠城場所だね。平時は主館で生活しているよ」
九重の問いに僕がそう答えるが僕も以前はそう考えていた。だってゲームとかだとそうじゃん!
平城なら主館と主城が一体になったゲームみたいな城も多いけど、ここは分類でいえば山城に分類される。防衛設備としての役割の方が高い場所だ。
「ところで裏で糸を引いている人らが居ると仮定して彼らは僕らをどうしたいんだと思う?」
僕は唐突にそんな質問を皆に投げる。
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