436話 武装解除してみた
襲撃者は眼のみ穴が開いている全身黒タイツのようなものを身に着けていた。体型的に女性であり躊躇われたが瑞穂に武装解除させた。
南方民族の女であり脱がせてみると右足は瑞穂によって切断されガナンの振り下ろされた巨大な剣は肋骨5本を粉砕し内臓破裂の状態であった。魔法の工芸品と思われる黒タイツを装備していなければ肉体が飛び散っていたであろう負傷であった。
虫の息であるが偏に薬、いわゆる麻薬による効果であった。公式には壊滅したとされる暗殺者組合で刺客が使用する痛消粉と呼ばれる痛覚がマヒし高揚感が増す薬だ。
負傷の度合いから早急に治癒を施さなければ間もなく死亡するだろう。
和花に声をかけると、
「死なない程度でいいのね?」と返事が返ってきたので頷いて任せる事にした。僕は佐藤君の様子を確認するためにその場を離れる。
「綴る、拡大、第八階梯、快の位、克復、快気、療治、緩和、修復、賦活、発動。【致命癒】」
和花の呪句が紡がれ暖かな光が襲撃者を覆う。
程なくして和花の安堵の息を漏らす。とりあえず一命は取り留めたようだ。
最初にやられた佐藤君だが飛び膝蹴りを喰らった顔面はひどい状態であった。鼻骨および上顎骨骨折により顔面の変形だけでなく明らかに苦しんだ形跡があった。恐らくだけど転倒した状態での出血で気道が塞がれたために窒息状態だったのではないかと思う。
口元に耳を近づけてみたけど呼吸音はない。これは救命処置とかより手っ取り早く【死者蘇生】の奇跡に頼ってしまおう。
アルマを呼び【死者蘇生】の奇跡をお願いする。
小走りで近寄ってくると軽く佐藤君を観察する。そして跪くと聖印を握りしめ瞑目し祝詞を唱える。
「法の神よ。この者の肉体を癒し魂をあるべき場所へと呼び戻したまえ。【死者蘇生】」
祝詞が終わると佐藤君の肉体が輝き負傷箇所が逆再生の様に元へと戻っていき息を吹き返す。
「離魂していなくて良かったわ。とりあえず彼は何処かで安静にしていないと駄目ね」
安堵の息を漏らすと立ち上がり襲撃者の方へと戻っていく。僕は竜人族のガナンを呼ぶと佐藤君を担がせる。
さて、襲撃者はどうなったのだろう。
戻ってみると襲撃者は自殺防止のために口に詰め物をされ両手は縛られていた。
僕が戻ってきた事に気が付いた和花が溜息をつきこう言った。
「【記憶抽出】を試したけど痛消粉の効果か表層意識が混濁していて意味不明な情報しか読み取れないかったの…………」
その後の沈黙はもっと記憶領域の深度を潜っても良いかという事が言いたいのだろう。潜れば欲しい情報が得られるかもしれないがほぼ廃人確定である。
正直に言えば迷った。武装解除したし右足を失った彼女の今後は苦難の道だろう。迷った末にこう告げた。
「【永久の眠り】した後に冒険者組合に突き出す」
責任を取りたくないので丸投げしたのである。なんとでもいうがいい。
「ところでコレどうする?」
暗い雰囲気をぶち壊したのは健司であった。彼の言うコレとは襲撃者の装備である。いくつか魔法の工芸品が混ざっている。
盗品が混ざっている場合は返却しなければならないがそれ以外は僕らが所有する事が出来る。
念のためにアルマに確認を取ると、「明らかに盗品で回収依頼があれば返却義務が発生するわ」との事であった。
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