435話 流石にこれは……
魔導機器組合に行き依頼証を見せ協力要請をし警備状況を聞くと予想通り最小限の人数しか配していなかった。
それもそのはずである。身の危険を感じた支部長が撤収命令を出し最後の荷の受け取りに必要な人員以外は引き揚げてしまったのである。
「最後の荷って?」
誰とはなしにそう尋ねるとハーンから返答があった。
「あれっすね」
ハーンが指さすモノは…………。
「また随分と下品な…………」
思わずそう零してしまった。
そいつは一次装甲から二次装甲に至るまで黄金に輝く重量級の魔導騎士であった。
しかも二次装甲は鱗片鎧となっており関節部分を隠す装甲は金色の鎖帷子。
「依頼者はすごいっすね。あの装甲全部が黄系の金っすよ」
「黄系の金って金貨に使われているやつ?」
「そうっす。割り金に銀と銅を同じ比率で混ぜた合金っすね。流石に装甲全部を純金で仕上げるには三つ理由で無理だったみたいっすけど」
因みにその理由だが価格の問題、騎体の自重増加による関節への負荷の問題、装甲強度の問題だ。
「流石にこれは盗めないでしょうし、市井にバラまけないしここはハズレかしらね」
唯一の金目のものがコレでは和花がハズレと言うのも仕方ない。高額商品のお金のやり取りは口座経由だろうからココには最低限の現金しか置いていない筈だ。
これは今日はダメだなと思っていた時だ。
物陰から突然黒装束の人物が飛び出してきたと思ったら眉庇を上げだらけきった表情をした佐藤君に常人ではありえない速度で飛び掛かった。
あっと思う間に飛び膝蹴りが顔面に決まり吹き飛んでいく。襲撃者は周囲を確認すると次の標的に最も小柄な瑞穂に狙いを定め飛び掛かった。
幾ら常人ではありえない速度とは言え不意打ちでなければ瑞穂には見えている。ギリギリで避けながらすれ違いざまに[鋭い刃]を一閃。
しかし予想とは違う結果になった。
物理的な防御は紙のように切り裂く[鋭い刃]の刃が通らず勢いに押され取り落としてしまったのだ。
襲撃者は着地した途端にありえない速度で回し蹴りを放つ。その強力な一撃を腹部に受けて吹き飛んでいく。
しかし大きく吹き飛んだのは【空身】で打撃を逃がした故でありしっかりと置き土産として太腿鞘から抜いた棒手裏剣を放っていた。
棒手裏剣が左肩に刺さったものの気にした様子もなく追撃をかけようとするも着地した瑞穂はもう一本の[魔法の武器]である[透過の刃]を抜いて構えていた。
素早く周囲を確認し素早く次の標的を定めた襲撃者は一目で魔術師と判る和花へと飛び掛かった。
しかしその行為は悪手であった。和花に届きそうになった瞬間透明な壁に激突したかのように弾き返され地面に転がる。預けてあった[力場の腕輪]による障壁だ。
自身の超人的な速度で壁に衝突した痛痒が大きかったのかよろよろと立ち上がる。
そこへ巨躯が走り寄り大上段から得物を振り下ろす。特定の警護対象が居なかった為に手が空いていた竜人族に貸与した白き王の所有していた巨大な剣である[聖剣ヴァルロード]の一撃であった。
重量52グローを超える巨大な質量の一撃は非常に重く3サートは吹き飛んでいった。
普通であれば即死でもおかしくない一撃であったが襲撃者は起き上がろうと足掻く。
そこへ瑞穂がスルっと懐に潜り込むと一閃。[透過の刃]は右大腿部を切断した。
防具であろう黒装束に傷がなく肉体だけを斬ったようだ。それでも死なず立ち上がれないと知ると這ってでも何処かへ行こうとしている。
ドスドスと近づいてきたガナンが巨大な脚で踏みつけ動きを止める。
そして僕らはようやく相手の正体を確認できるようになったのだ。
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この話では樹はアルマの護衛、健司はアリスの護衛に回っています。




