45話 洗礼
2023-09-15 文章の構成がおかしいので改変
ちょっと気になることがあり冒険者達が逃げてきた方へと歩きながら先ほどの戦闘…………区画主戦のダメ出しを受ける。
隼人は動きは悪くなかったと褒められていた。
健司は風車じゃないんだから馬鹿の一つ覚えみたいにブンブン振り回すなと叱られていた。
和花は早めに投石紐の投擲に切り替えた判断力はいいが痛痒には程遠かった。怪物が巨大で動きが鈍いのであれば槍などの|長物を用意して後ろから突いていた方が良かったかもしれないので検討するようにと言われていた。
そして僕はと言えば…………。
「作戦は悪くなかった。一番嫌な汚れ役を自分で行ったのも良かった————」
あれ? 褒められてる?
だがそれは前振りだった。武器は小剣で十分だった事。すぐに武器から手を放して離れなかった事で結果として下水で溺死という不名誉な状況に陥った事をこっぴどく叱られた。
暫くあれこれと話し込んでいると右側の通路に大黒蟲が数匹ほど何かに群がっている。
「止まれっ」
そう師匠がそう制止の声を発すると同時に大黒蟲が爆ぜた。
多分魔術師なら誰でも無詠唱で放てる初歩の初歩である【魔力撃】だろう。
そして現れたのは————。
テレビ番組だったりネットだったらモザイクがかかっているであろう大黒蟲に食い荒らされた死体であった。
背負子を背負っていることから荷運び人として雇われた者であろう。
師匠の事だから見せると言うことは何か意味があるのだろう。
吐き気を催すもののそれを堪えて集中して観察すると————。
「師匠…………まさか…………」
「そのまさかだ」
この遺体は僕らと同郷の者たちだ。もしかしたら…………。
「ここは奴隷の最終処理場でもあるからな。格安で処分奴隷を買って荷物持ちとしてこき使い自分たちがピンチになれば彼らを囮に逃げ出す。そんな事がそれなりにまかり通っている————」
師匠の話は進む。
「年齢は17~18だろう。お前らの学校の生徒だとするなら、その年齢だと軍事教練で戦闘訓練を受けているはずだし、それなりに戦闘も出来る荷運び人がなんと金貨数枚で使い捨てにできる!」
そんな嫌味を言い始めた。続きがあり、
「先ほどの冒険者はそこそこ年配だった。僅か金貨数枚で自分たちの命が助かるのなら安いもんだろう」
段々イラつきが募ってきたのか最後は吐き捨てるよう言って締めくくった。
「みんな提案がある」
師匠の説明に黙り込む皆に対して僕はある提案を行った。
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「まーしゃーないだろう。付き合ってやんよ」
「お金はまた稼げばいいしね」
健司と和花には肯定してもらった。だが…………。
「俺はお断りだ。俺の取り分は俺がどう使うか決める!」
隼人は頑なに拒否を口にした。それを批判するつもりはない。
僕の提案はこうだ。
今回の区画主討伐で得た万能素子結晶が想像以上に高額で売れるらしいため、これでここの地区の奴隷を買い集めて師匠の【次元門】の魔術にて元の世界へと送り返そうという内容だ。
ただこの提案にはいくつか問題を抱えている。
ひとつめは師匠が【次元門】の魔術の費用をいくらで請け負ってくれるか?
ふたつめは買い取った奴隷たちの【隷属刻印】をどうするか?
みっつめは全員買い取るのは難しいので優先順位をどうするかである。
ひとつめはあっさり解決した。
「次の送還タイミングで一回にまとめてくれればタダでいいぞ」
師匠はそう言って請け負ってくれる事となった。何か裏があるのだろうか?
ふたつめに関しては師匠の話だと、一般的な、大半は借金で首が回らなかった奴などだが、労働奴隷は主人に直接または間接的に危害を加えないのであればそれなりに自由に動けるらしい。また世界を跨ぐことで呪いの効果が無効化する可能性もあるとの事だ。
ただ世界を跨げない可能性もある。残酷だが誰か一人を実験に使うしかあるまいとの事だ。それもある意味では仕方ない。元の世界に帰れることは最後まで伏せておくしかないだろう。
そうは言っても生贄に選ばれた人は堪ったもんじゃ無かろうとは思うが他に方法が思いつかない。
開放手続きをするにしても莫大な資産が飛ぶ。僕らの案は開放手続きに回す代金も奴隷となってしまった同胞を集めるための資金にするためだ。
分かっているけど…………。
みっつめの問題は仕方なかろうと思う。金銭的に全員を救う事は出来ないわけで取捨選択は必要だろう。具体的には幼い子供から買い取る方向になる。最も同じ人間に優先順位をつけるのかと怒りそうな人はここにはいない。
一応方針は決まったので万能素子結晶を売却し明日にでも買取を始めるかーって事になり帰路につくことになった。
原則左側通行と言うことで一旦奥へと向かい下水路を渡り元来た下水路を入り口に向かって歩いていく。
今回は地図係を用意しなかったが、それほど奥まで進んでないし問題ないだろう。
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「よう。ご同輩」
下水路を出てやや広い通路に差し掛かったところで正面に立つ戦士風の冒険者に声をかけられた。よく見れば先ほどの一党の一員だ。
他にもいくつか一党がいるがまるで僕らを取り囲むようにジリジリと動いているのが分かる。
ここに来るまでの師匠の話の中に連鎖暴走を押し付けたり、押し付けた挙句に討伐してしまった場合は横取りしたと難癖付けて襲ってくる冒険者がいるとは聞いていた。
まさか初日からそんな目に合うとはね…………。
瑞穂は師匠が責任をもって守ってくれるだろう。
残りをどう対処するかだ。
出来るなら人を殺すという行為にだけは手を染めたくない。
「何するの! 離して!」
どうするか決めかねていたらいつの間にか近づいてきた如何にも手練師っぽいおっさんが和花を羽交い絞めにしていた。
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