431話 もしかしたら彼の正体は
「考えたくないけど一人該当者がいるの」
勿論ここでいう該当者とは、やや日本語訛りの公用交易語を使う人物の事である。和花の話はまだ続く。
「先生が異世界からの召喚はもうほとんど無理って話は覚えている?」
「もちろん。佐藤君の件は驚いたけど、ギリギリ召喚可能期間だったっぽいしね」
「確証はないけど日本語訛りで特権階級とかに憎しみを持っている人物に心当たりはない?」
「その口ぶりだと和花は僕らの同級生だって言いたいわけ?」
和花は無言で肯首する。
確かに僕らの元の世界の二等市民などには武家の人間を無条件で憎む輩が一定数いる。
僕に言わせればそんなに職業や結婚の選択肢の自由のない生活が羨ましいのかと説いたのだけど。
僕らと一緒に強制転移された面子はリストを作り行方を可能な限り追跡した調査書がある。破棄奴隷として処分された者もいた。こちらの世界に残った者もいた。記憶を弄る。
こちらに残った人物で一人だけ所在不明の人物がいた。
「…………日本一か」
[鬼神闘拳]だったかの武技使いという点はやや条件にそぐわない気もするが、柔道の名手である日本であればこちらの世界の日世なら誤解する可能性は確かにある。
[鬼神闘拳]は拳打や蹴撃も使うが主軸は投、極だでやや柔道に近い。対して[金剛闘流]は打撃が多く空手に近い。
勘違いされても仕方なし。
指名依頼なので依頼キャンセルの罰金はかなり大きい。ざっくり言うと金貨で三千枚相当だ。
うちの共同体が資金があると言っても軽んじていい金額ではない。
魔法の工芸品を多数装備してるのも厄介だ。
そう考えつつもそれとは別の事も考えていた。いくら日本が特権階級憎しとか金持ち憎しだったとしても強盗殺人まで犯すのか? しかも複数回だ。
その疑問を口にすると、
「精神魔術に対象の妄執を肥大化させる【妄執増加】があるの。可能性としては都合よく利用されているだけって事も…………」
妄執が肥大化すると冷静な判断力がなくなり、ただただ妄執を晴らすために何をするかだけ考えるようになる。また妄執を邪魔する者は無条件で敵と認定する。
「解除できそう?」
妄執が晴れれば取りえず強盗殺人は止まるのではと思い尋ねてみた。
「【妄執増加】は分類が[呪い]に属する魔術なので解除するにしても初歩の【魔法解除】は効果がない。呪いまたは命令を解除する【命令解除】かあらゆる魔法を消し去る【完全解除】があるけど実力的に私たちには使えない。あとは奇跡の【解呪】、【呪詛返し】くらい? アルマにお願いしてみる?」
そう提案された。確かに確率的にはそれが一番な気がする。
せめて[呪文貯蓄の指輪]に【完全解除】が残っていたらと思うけど使わざる得なくて使ってしまったのだから今更後悔しても仕方ない。
兎に角次の黒の勇者の標的を予測して配置に付こう。
影響力の高い三大組合のひとつである魔術師組合のある賢者の学院を襲撃した以上は大手への襲撃を躊躇う理由もないし商人組合か魔導機器組合あたりだろうか?
そう思わせておいて独立商人かもしれない。
不思議とこの国の貴族に手を出すという考えは除外されていた。
ブックマーク、評価、感想、誤字報告などありがとうございます。
やや半端ですが予約投稿文はここで終わりです。この話が公開された頃は執筆環境から離れた場所で仕事をしてるかと思います。
次回投稿予定は25日くらいを予定しておりますが出張からいつ戻ってこれるか次第では前後します。




