430話 被害現場の報告。盗まれたものは…………
僕の不在の間に賢者の学院へと聞き込みにいった和花の話はこんな感じから始まった。
格子状の鉄門は直径0.5サートの円形状に削り取ったような穴が開いた。私見であるが恐らくは時空魔術の奥義である【空間消去】の可能性が高いとの事。
同様に賢者の学院の玄関も開いていたとの事。
当直していた魔術師三人が死亡していたとの事。フリューゲル高導師の意見としては投、打、極を修めた[鬼神闘拳]の達人によって接敵から一分ほどで倒されたのではとの事。
その後は目的地までの移動の際に運悪く遭遇してしまった魔術師二人が同様の手口で倒されている。
最後に会計担当導師が殺されている。合計六人であったが運よく会計担当の導師は【死者蘇生】が成功したという。
会計担当の導師曰く、「魔術師は金持ちか才能持ち以外にはなれない。これまで良い思いをしたのだから平等の名のもとに不幸な民衆とのバランスを考えなければならない。故に死ね」と言ったそうだ。
賢者の学院で教育を受ける者が金があるのは事実だが、彼らは遊びで通っているわけではない。黒の勇者は本気で平等という名の人族総貧乏&無学化でも目指しているのだろうか?
他にあった被害と言えば金庫が破られており、中にあった金貨300枚と現金代わりに使われる宝石が120万ガルド相当がなくなっていたそうだ。
意外と少ない被害なのは残りは商人組合が管理する口座に預けてあったからだ。
そうは言っても自由民の成人男子が普通に暮らせば60年は暮らせる金額だ。
他にも禁呪庫と呼ばれる場所から三つの魔法の工芸品が盗まれた。
ひとつは[超人の腕輪]。
身に着けた者の肉体的能力を超人的に跳ね上げる効果がある。ただし時間制限があり四半刻経過すると反動で全身に耐えがたい激痛が襲う。
ふたつめが[呪文貪喰の指輪]。
ある意味で魔法使い殺しの指輪で自身に影響を及ぼす一定魔力強度までの魔法を指輪に吸い込ませてしまう。盗まれたものは最上級品級に該当しフリューゲル高導師を以てしても抜けないかもしれないとの事。そうなると和花の奥の手が効くかどうかだろうか?
最後が[高防御圏の指輪]。
僕ら導師級の魔術師であれば無詠唱で使えるようにしておくのが必須と言える【防護圏】の上位魔術だ。回数制限があり盗まれたブツは最上級品級との事なので一日に一〇回まで使用できる。
黒の勇者がそれらを売り払うとかであればまだしも身に着けて次の犯行現場に現れたら手に負えないのでは?
そして賢者の学院から逃走した黒の勇者は南地区で金貨や宝石をばらまいたという。
問題はここから。
夜の薄暗い中で金目のものに必死に群がる住人らが翌朝には消えていたという。朝になって南地区の住民の通報で憲兵隊が駆けつけた時には争った痕跡はあったという。ただ夜中に騒ぐものが一定数いるのは日常的であって住民は誰も気にも留めていない。
消えた住民の数は48人だそうだ。アルマが高位審議官の権限で調書を確認しているので恐らく真実であろう。
逃走してから南地区から通報があるまで二刻もあり幾らでも始末して死体を処分する時間がありそうではある。
実は王家と黒の勇者による自作自演?
う~ん…………情報が足りないなぁ……。
「和花はどう思う?」
「瑞穂ちゃんとも話し合ったんだけど、王城の豪華さに比して町は全体的に貧しいよね。税金だけであれだけの事が出来るかと言えば難しいと思うの」
「やっぱり王家の自作自演?」
しかし和花は首を振った。
「黒の勇者が義賊宜しくお金をバラまいてるのは本当だと思うの。ただ王家と結託してるわけではなく王家が利用をしているだけかなと思うのよ」
そう答えるのだが、それだと黒の勇者がその後の住民の惨状を無視しているのも変ではないだろうか?
それに対する和花の回答はこうだ。
「勘なんだけど黒の勇者って実は南方語が理解できないのではないのか? 襲った際に相手に対しての宣告は西訛りの公用交易語であったそうなの」
「それで?」
「その西訛りって私たちがここにきて公用交易語を覚えたての頃によく似ているのよ」
西って中原西部の僕らと異なる並行世界の日本から移住してきた者たちの末裔である日本皇国って事らしい。
わざわざあんな遠くからここにまで義賊をしに来たのか?
さっぱりわからん。
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