428話 交渉?
僕は王都アルディアであるモノを探しそれを持って共同体の拠点に【転移】で戻ってきている。戦闘要員の増援の選抜の他にもうひとつやることがあり急遽戻ってきたのだ。
事務所に顔を出し事務員にメイザン司教の居場所を確認を取ると来客中との事で事務所で待たせてもらう事にした。
待つ間に選抜する面子を誰にするか考える事四半刻。メイザン司教が二人の男を伴って事務所に現れた。
どちらも大物である。
ひとりはシュトレイム侯爵。ウィンダリア王国軍務大臣だ。もう一人は十字路都市テントス魔導機器組合の支部長であるレオグラード氏である。
「おや、高屋さんではないですか。たしか指名依頼で南方へ行ったのでは?」
「メイザン司教にお話がありまして」
「ほうほう。では、お聞きしましょうか」
大物二人が立ち去る気配はない。勘のようなモノで聞いた方が良いと判断したのか。
「実は――――」
僕の持ち込んだ話は南方で砂糖黍を生産し黒糖などに加工して輸出するタルセン砂糖商会の経営者一族が死亡して事業が止まっているという話だ。
この世界にも取締役は存在するが一族経営が基本であり殆どの会社が親類縁者などが同じところに固まって生活している。それは情報の伝達が困難だからである。
故に一族死亡イコール経営陣全滅という事になる。ほぼ例外はない。この場合は株式を保有しているものが集う株主総会で六割の支持を得た人物を次の代表取締役に据える事で商人組合から事業認可が下りる。
経営者一族が不在で多くの小作人と砂糖工房の動きが止まる。彼らに経営を行うだけの教育は行われていない。
こうなってしまうと先に会社の権利を手に入れた者がうまい汁を吸えるのである。
中原では事業を行う際に手っ取り早く資金調達を行うために株式を発行する。
タルセン砂糖商会も株式会社である。
経営者一族殺害の報が届けば魔法の証券の保有者は経営権を求めて争いが始まるであろう。
しかし情報が届くのは今の南方の状況では最速でも一週間はかかる。この時代の株取引は証券取引所などはないので魔法の証券保有者との直接交渉である。魔法の証券の小口保有者は経営者一族が死亡などといったトラブルがあったときは殆どの者が損切りと割り切って手にした魔法の証券を売却に走る。
儲け話に煩いメイザン司教がこの情報を有効活用して金儲けに走るだろうと思いこの際なので恩を売りつけておこうと思い話を持ち込んだ。
砂糖利権を得られるチャンスでもあり商業の神の聖職者たるメイザン司教であれば従業員を無下には扱わないだろう。金を持ち人を使う立場にいる者ほど技術や知識を持つ者を大事にする。この世界、職能奴隷と呼ばれる存在が平民以上に優遇される。うちのハーンとかもそうだ。
人の不幸に漕ぎつけて不謹慎にも思えるけど悪くないよねぇ?
そしてメイザン司教と一緒にやってきた人物であるが、予想通り鹵獲品を買い取るために来た人物であった。
赤の帝国の太古の魔導騎士の性能を解析して恐らく自国の正式採用騎に反映させるのではなかろうか?
それ以外にも自衛軍から鹵獲した車輛にも興味津々である。
そして彼らは僕に提案する。
ハーン以下6名の魔導機器技師を譲って欲しいという話であった。
国の重鎮で貴族ともなれば自由民の僕なんかは本来は平伏して従うものなのだけどきっちりとお断りさせてもらう。
仮に権力で締め付ける気であるなら逃げ出す算段はしてある。その為に白鯨級潜航艦を秘匿しているのだ。
手を変え品を変えて交渉を続けようとするが指名依頼に影響があることを理由に断った。
流石に僕の意思が固いと判断したのか鹵獲品の仕様書を作って欲しいという指名依頼を受ける事となった。
さて、選抜メンバーを南方に連れて行かないと。
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