427話 出し抜かれる
「まずは自己紹介からだよな。俺様はこの国に一年くらい前に召喚された勇者の佐藤陽翔。17歳。彼女いない歴イコール年齢だ。よろしくな」
そう言って和花にウィンクするのであった。和花がイラっとしたのが伝わってきたけど佐藤君は気が付かなかったようだ。
和花は平静を装いつつ僕の方を見る。まとめ役から自己紹介しろって事か。
まずは僕の簡単な素性とこれまでの経緯を説明する。それから順を追ってメンバーを紹介していく。佐藤君は男性陣に対しては愛想笑いを撃兼ねているが女性陣に関しては興味がないという体を装いつつも明らかに性的な目線でチラチラとみている。
気が付かれていないと思っているのだろうけど、女性はそういう不躾な視線に敏感だぞと忠告してあげたい…………。
互いの連帯の為にもどの程度の戦闘能力があるか知りたいなという事である意味定番な模擬戦を行う事となった。
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「フリューゲル高導師から見て彼はどうでした?」
模擬戦が終わり佐藤君は疲れ果てて先に寝てしまった。
実際に戦ってみた感想としては、そこそこ片手半剣と方形盾を器用に使い略式魔術を使うそれなりに強い魔戦士であった。元々はごく普通の高校生であり、こっちに来て一年であれだけなら優秀だと思うけど何か違和感があった。
その違和感の正体はフリューゲル高導師の感想ではっきりとした。
「一言でいえばあれは借り物の強さだな」
「借り物ですか?」
神々が勝手に押し付ける恩恵だろうか? だがそれは違った。
「大昔だが、統合魔術に技術や知識を付与する魔術が存在した。稀にだがそういう能力を持った魔法の工芸品が見つかったりしている。恐らく彼の武具には何らかの技術を付与した一品物なのだろう」
魔術の法則を鑑みるに彼はあれ以上は成長しないと言う事か。ゲームのように元の実力に対してプラスに働くのであれば本人が強くなればその分強くなるけど、あれの強さは固定であり大昔の魔戦士の戦闘力を再現しただけだ。
厄介なのは佐藤君は自身は下駄を履かされている感覚がない事だ。騎士と魔導従士の関係に近い。決められたパターン以外の動作が出来ないのだ。恐らく強敵と遭遇したらあっさり弱点を見抜かれるだろう。
予備戦力くらいと考えておこう。
その日は何事もなく終わり――――。
王都アルディアの南側で事件は起こっていた。僕らがそれに気が付いたのは毎日の鍛錬を終えて朝食を頬張っている時であった。
賢者の学院に黒の勇者が侵入し貴重な魔法の工芸品が数点奪われただけでなく、その後は追撃で王都の住人が襲い掛かり逃げ遅れた魔術師見習いなどが死傷したという。
これは拠点に帰り増援を連れてくるしかなさそうだと決めたのであった。
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