425話
情報が少なく黒の勇者捕縛の話は中々進まなかった。囮を用意して誘い込むのが無難ではとなったものの協力者が見つからない。大店は既に撤収しており独立商人は規模が小さい。
僕らが王城に行っている合間に九重が単独で王都を調べて回ったのだけど神殿も貧乏すぎて荒れ放題であったという。信者も熱心に祈る暇があれば稼がなければという感じであったという。
中原の都市部でも子供が就労していたけれどもここでは幼稚舎に通うような子すら労働力として見なされている。
闇市が存在しているが物々交換が主で貨幣があまり使われていないという。黒の勇者が市井にバラまいたというモノはどこに消えた?
最初はタンス貯金かと思ったけど明らかに貯蓄している形跡がないとの事であった。
まさかと思うけど、資産家から奪った金品を黒の勇者が市井にバラまいた後に王国が回収しているのではと思ったらしい。
九重がなんでそう思い至ったのかと言えば毎回都合よく黒の勇者の襲われた後にタイミングよく追撃で南方民族の集団に略奪暴行が発生する。ところが精霊魔法の【風の記憶】で場の音源を辿ると流暢な公用交易語で『回収しろ』と命令している声が残っていたという。
市井に住む者で流暢な公用交易語が居るとは考えにくい。
そしてもう一つが疑った理由はここ数か月の死者数が急増している事だ。北半球と違って当時はそれなりに暖かく凍え死には考えにくい。アルマに確認したところ、この国は近くを通る暖流のおかげで緯度の割には温かいという。
今わかっている情報はこれくらいである。
「ところで予告状とか出してくるわけでない相手をどうやって捕捉するんだ?」
「取り合えず独立商人で金を持っていそうな人を監視かな?」
九重の疑問に対して僕はそう答える。するとイヤそうな表情をする面子が幾人いたけど無視する。理由は判っている。この不衛生すぎる街中で張り込みなんて誰がしたいかと……。
「黒の勇者の犯行時間は深夜だというし、この王都は街灯もないから襲撃があるとしたら月が出ていないときか?」
「そうだね。雨の日は犯行しにくいし、新月か曇りの日になるだろうね」
そう答えたあと、月の周期を思い出す。この世界、街灯はコストの問題で大都市以外はあまり普及していいないし各家庭も燃料費に四苦八苦する家が多いので日が沈むと町は一気に暗くなる。特にここは治安が悪すぎて歓楽街くらいしか明かりが灯っていない。二つある月が隠れればほぼ真っ暗である。
「新月はまだ先だな」
フリューゲル高導師が先に応えてくれた。
「そうなると曇りか……」
「天候を強制的に曇りにして誘い出す?」
和花が【気象制御】で強制的に曇りの日を作るかと提案してくれる。
「でも、負担がかかるんでしょ?」
そう口にしたのはアルマである。
僕や和花の魔術師としての実力は第七階梯魔術の行使が限度だ。だけど負担は大きいけど無理をすれば第九階梯の【気象制御】が使えるとはいえ……。
本来の力量以上の事を行えばそれなりに反動が返ってくる。
「そのかわり戦力としては当てにならなくなるけどね。でもこの面子なら私が居なくても問題ないでしょ?」
夜間の戦闘、それも暗闇での戦闘となると夜目の利かないアルマと竜人族のガナンは留守番となる。和花は【気象制御】の維持に専念してもらう。
「出歩きたいのは判るけど、まずは独立商人を探そう」
そう提案し解散となった。
ブックマーク、評価、感想、誤字報告などありがとうございます。




