424話 王城にて
意外なことにアルドン二世陛下への面会はあっさりと叶った。
この国だけど建国そのものは一五〇年ほど前らしいのだけど建国者たるアサディアス王朝は先代のクーデターによって全員処刑されており、現在の国王はアサディアス王国アルドン王朝の二代目という事になる。
馬車で移動中の道中で町並みは見ていたがまともな家屋がほとんど存在しない。至る所で窃盗などを見かける。警らの兵士も窃盗などの軽犯罪者に対して無慈悲に斬り捨てている。
疑問に思ったのは黒の勇者は義賊的な行いで金持ちを襲いその資産を市井にバラまいているという。被害総額から聞く限り市民に行き渡っているようには思えない。
タンス貯金でもしているのだろうか?
アルドン二世陛下への謁見には僕の他にフリューゲル高導師が同伴した。貫禄があるであろうという事でフリューゲル高導師に対応をお願いし僕は従者然と付き従う。
アルテント城に入って最初の印象は常駐する兵士の数の多さと下品なまでに華美な装飾が施された城内であった。
国民が困窮具合は恒常的にも見える。それなのにこの贅沢ぶりは…………。
「樹君。言いたいことは判るがここは抑えなさい」
僕の思いが伝わったのかフリューゲル高導師に窘められる。
情報提供で協力してもらわなけばならないのだ。
▲△▲△▲△▲△▲△▲
謁見が終わった。情報は事前に依頼者に聞かされていた内容と大差がなかった。大きく違うのは城の人間は皆が黒の勇者と呼んでいる。
そもそも国王に黒の勇者を捕縛しようという気が感じられないのだ。
王都の惨状と華美な城内、死んだ魚の目をした使用人に肥え太った国王と胡麻を擂る貴族。
正直こんな王朝は滅べばいいと思うけど、滅んだところで無知な国民の現状は変わらない……混乱で更なる被害が出るだろう。
「腹の立つ話だろうけど、現状で我々に出来る事はないよ。多少の援助など焼け石に水だ。良い事をしたと自己満足に浸りたいのなら構わないが、仮にも君は大所帯の共同体を纏める人物だ。あとは判るね?」
中途半端に手を出せば火傷程度では済まない事は判る。ゲームのように資金が無尽蔵に湧かないからなぁ…………。
総貧乏を目指すならアリかもしれないけどね。
帰りの四輪馬車内でフリューゲル高導師に窘められたものの理性では納得できても感情面ではなかなか納得できないのであった。
冷静な部分では手が施しようがないのは理解している。一瞬、例の島へ送り込むかとも考えが過ぎったけど現状では数百人の受け入れが限界だ。しかも知識もないその日暮らしの彼らを整った環境という入れ物に放り込んでも事態が改善するかと言えば…………。
少なくても島が使える万能素子を増やさなければどうにもならない。
早急な迷宮攻略も視野に入れようかとも思ったものの…………。
「悩んでいるようだが、いくら施そうと効果は付け焼刃だろうし改善するには彼らを導く者が必要だよ。冷たいようだが南方民族の中から導き手が現れる事を祈るしかないよ。そしてそれは義賊を気取る黒の勇者ではないがね」
いつの間にか賢者の学院の敷地内に戻ってきたようでフリューゲル高導師はそう言うと四輪馬車から降りてしまった。
取り合えず黒の勇者とやらを捕縛するための方針を固めよう。
ブックマーク、評価、感想、誤字報告などありがとうございます。




