44話 二度ある事は三度あった。
2023-09-15 進行上の時系列でおかしな点があったので一部文章をバッサリ削除
「わかった」
隼人はそう言うと幅1サートほどの下水路を飛び越えて反対側の通路へと着地する。
「さて、僕も覚悟を決めるか」
区画主である変異性超巨大黒蟲は黒蟲らしく初動が早く短い距離でも、その質量が乗った一撃は結構重く、重武装の健司でなければ何度も耐えるのはきついだろう。
僕らは基本的に下水路の左右にある点検用の通路で足を踏ん張って武器を振るう。腰の……体重の乗らない一撃では埒が明かないからだ。
だがそれ故に相手との相対位置によって攻撃できる位置が限定されてしまう。
特に健司のは竿状武器に分類される三日月斧で、攻撃範囲が竿状武器の中では狭めとはいえ質量と遠心力を生かしたその一撃は処刑斧と別名されるほど威力だ。まともに入れば大きく痛痒を与えるであろう一撃は、切っ先が何度も壁にあたり火花を散らしているあたりを見るに難儀しているようだ。
そんな時、区画主が左回りに向きを変え始めた。右前肢を健司によって切り落とされているせいか動きがぎこちない。どうやら反対側に回った隼人の腹部への攻撃に対処するために標的を変えたようだ。
小回りの利く隼人なら健司と同じ状況に陥っても攻撃も回避のスペースは十分とれる。隼人に攻撃が集中すると言うことは健司の攻撃スペースが確保されることになるので悪くはないはずだ。
となれば後は僕が覚悟を決めるだけだ。
改めてそう自分に言い含めて下水へと身を沈める。
「おうぇぇっ」
あまりに臭いに嘔吐しかけたが、内容物をぐっと飲みこむ。ここは我慢だ。
下水自体の深さは事前説明で0.25サート程度だと聞いていた。
ここからさらに身を屈めて首から上だけ下水から出した状態で区画主へと接近していく…………。
水質は劣悪っぽいけど、底の方はヘドロの様なものもなくしっかり踏ん張れる。
流れに逆らう形で徐々に近づいていく。
区画主は巨体故に常に下水をまたぐ形で居座っているので無防備な下から突き刺し出来る一番良い場所は下水路なのである。
こちらの存在には気が付かないようで健司と隼人の対処に追われている。ちょうど隼人の方に躰を向けた。
「いまだっ!」
伸びあがるように両手で構えた片手半剣を真下から突き上げる。
思ったほど抵抗も感じず鍔元まで食い込んだ。そして下へと振り下ろすように腹部を大きく切り裂く。
ドバドバと形容しがたい内容物が頭上から降ってくるのを目を瞑ってやりすごし————。
あ、ちょっ、まって。
区画主が沈みこんできたようで見た目よりかは軽いがそれでも人ひとりで支えきれない程度には重い巨躯が圧し掛かってきたのである。
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浮遊感に襲われて慌てて手足をバタつかせる。
汚物やら体液で目は開けられないので周囲はわからないが下水から引っ張り出されたようだ。
「いてっ」
放り棄てられたのか通路に投げ捨てられたようだ。その後一拍置いて何やら魔術が施された感触を覚え、
「おら、目を開けろ。このマヌケめ」
そう師匠に言われて恐る恐る瞼を開くと…………。
「あれ?」
汚れていないどころか装備が洗いたてのようにピカピカになっている。
「もうちょっと後先考えろ。お前さん区画主の自重で下水の底に沈んだんだよ」
どうやらこういうことらしい。
僕が区画主の腹部を大きく切り裂いたあと急激に弱った区画主の頭部を健司がカチ割ったとの事だ。
それが止めになったらしく下水に沈み込んでいく際に下にいた僕も巻き込まれたらしい。
目を瞑り呼吸を止めて耐えてたつもりが、救助する頃には窒息による心肺停止状態だったらしい。
そんな状態の僕を【水位減少】で水位を下げ【次元斬】で区画主の死骸を細切れにし【回生】で息を吹き返させ【念動】で拾いあげ最後に【洗濯】で身ぎれいにされたのだそうだ。
何気に奥義級の魔術が混じってるあたりが流石は師匠である。
「とりあえず礼いらないが、俺がいなかったらお前さん死んでたぞ」
怒っているようにも聞こえたが、口調そのものは呆れたと言わんばかりである。
心肺停止って死亡じゃないの?
そう思っていると疑問が顔に出ていたようで、
「応急処置…………この場合は人工呼吸や心臓マッサージで蘇生可能な場合は魔術師的観点からは死亡と定義はしない。ただ下水まみれの樹に応急処置はしたくなかったんだよ」
そう師匠に言われた。
もう一つ一応緊急性もあった。大変高価な触媒を用いる【死者復活】を使いたくなかった為だとも言われた。
「これいくらになるんでしょう?」
その話はこれで終わりとばかりに隼人が拳大の万能素子結晶を差し出してきた。区画主のやつだ。
それは内部から眩しいくらいの光を放っていた。
「そうだな。まずは区画主討伐おめでとう。実力的にはイケるとは思ったが…………まー小言は後にしよう」
まずはそう師匠が称賛してくれて万能素子結晶をマジマジとみている。
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