421話 訪問者
アルマも不在であるし念のために【虚偽看破】をかけておく。
程なくして応接室に通された六人組の若い冒険者を見た最初の印象が期待外れであった。
顔立ちの整った細身の女性六人組である。服はくたびれているがそれなりに上等なものを着ている。恐らくだが富裕層の娘さんらでまだ結婚とかしたくないと家を飛び出した娘らだろう。
うちの共同体は未成年や女性も囲っているので一縷の望みでと言ったところだろうか?
だがなぜ冒険者?
この世界の都市部では10歳までに初等教育を終え二年ほどの猶予期間の後に将来の職の為に親類や知人の伝手を使って商人の丁稚や職人の徒弟となるか国軍や領軍の訓練所へ入るか使用人派遣組合に所属し礼儀作法などを学ぶか、高等教育を受けて役所務めを目指すかとなる。
そこで才能なしとなった者が成人したのちに仕方なしに冒険者としてなる。
見習い期間は成人までなのでそれ以降は大半の場所は受け入れは行わない。それもあってか女性は早期に結婚して家庭に入るのも勝ち組コースだと言われている。
冒険者の訓練所が今年から稼働を始めたけど、そこにいないという事は才能なしとして落とされた可能性もある。
まずは聞いてみるか。
まずは自己紹介と認識票の確認と何が出来るかを質問する。
ところが予想外の回答が返ってきた。
「個人情報を聞いてどうするのですか?」
そうこの世界ではまず聞かない文言である個人情報である。冒険者として共同体で働くなら何が出来るかを確認するし身元の怪しい者を使うわけがない。認識票から分かる情報は等級、氏名、年齢、性別、種族、自己申告の職能と管理番号くらいである。
偽名を名乗っている場合は基本お断りであるし、種族と年齢が分かればある程度の経験も推測できる。仕事をする際に事情により性別を指定してくる依頼人もいるので確認はしたい。
「なるほどね……。で、そもそも君らは何が出来るの? 素性も能力も分からないのになんで採用されると思った? ここは慈善事業の訓練所じゃないんだけど」
そこまで言うと気の弱そうな一人が認識票を取り出し差し出そうとする。
それをまとめ役の少女が手をはたき認識票は床に落ちる。
「私たちは女性の正しい権利を主張しています。この意味わかります?」
ふふんといった感じ胸をそらす。
何の権利かさっぱり理解できないなぁ。この世界は結構能力主義で出来の悪いものは底辺に甘んじるしかない。そこに性別はない。
この世界で女性の社会進出が少ないのは単に能力で劣っているからだ。同じ能力であれば一家の大黒柱となる男の方が無理をさせやすい。こっちの世界は人件費が安いからね。故に採用も体力の勝る男が優先される。
この大都市で冒険者をやろうとすると大半は雑多な体力さえあれば誰でもこなせる仕事ばかりだ。彼女たちの身体をざっと眺めてとてもこなせるとは思えない。
その後も女性の権利とやらを何かにつけて主張しており聞くに堪えない。要約すると女だから優遇しろという話に収まる。
面倒なので手鈴を鳴らし使用人を呼ぶ。小声でいくつか指示を出すとまとめ役の少女の主張を黙って聞き流す。
ハッキリ言って時間の無駄である。
八半刻ほどしてその人物がやってきた。
「樹さん。御用とか?」
その人物を見た瞬間に六人の少女の顔色が真っ青になった。
この町で知らぬ者はいないと言われる人物。断罪の聖女アルマリアさんであった。
心にやましい事を抱える人ほど彼女を見て恐怖する。
分かりやすく高位審議官の正装を身に纏って来て欲しいとお願いしたのだ。
アルマにそっとこれまでの状況を耳打ちし後を任せたとばかりに退出する。
アルマをやり込められるほどの人物であれば採用しても良いかなと思いながら。
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