418話
ハーンとレルンと別れた後に事務所へと行くと待っていましたと言わんばかりの満面の笑みを浮かべたメイザン司教が近寄ってい来た。
「お待ちしてましたよ。高屋さんには是非ともアレを譲っていただきたい」
「アレとは?」
「またまた~最近拾ってきたアレですよ」
分かってるくせにと言わんばかりである。本来であれば彼がアレの存在を知るはずがない。魔法の契約書の隙をついた方法で誰かから情報を聞き出したのだろう。流石は元やり手の商人にして商業の神の司教である。
「適正な価格で引き取っていただけるなら許可しますが……」
そこで一度言葉を切る。
「アレの件はどこまで話が行ってます?」
メイザン司教の立ち位置は面倒で複数の組織に在籍している。どの組織の利益の為に動いているのだろうか?
「まだ私の胸の内に……。迂闊に洩らせるものでもないでしょう」
そう述べるメイザン司教の表情は変化はない。そりゃすぐに表情に出るような商人は三流だ。
交渉事は審議官のアルマがいる事で有利に進められていたが彼女が不在だと嘘か真か判断しにくいなぁ。
商人は利益のために淀みなく嘘をつくがメイザン司教は契約を重んじる商業の神の司教でもある。
ここは聖職者でしての彼を信じるとしよう。流石にアレを全部ハーンの玩具にするには勿体ない。
「ハーンに不用品を売却するように指示書を認めますのであとはメイザン司教の方で交渉してください」
僕はそう告げると事務員から封筒と上質紙と先玉筆を借りて認める。
先玉筆を置き
「綴る、基本、第一階梯、彩の位、輝き、魔力、筆跡、刻印、発動。【魔術師の署名】」
素早く詠唱し指示を認めた上質紙に触れると勝手に僕の名前が記される。
この【魔術師の署名】は人体の固有の波長を記憶しているので偽造は不可能なのだ。魔術師にとっては実印に相当する。
書面を再度確認し問題ないと判断した後に封筒に納めると封蠟し共同体の印章を押す。
「これをハーンに渡して指示に従うように伝えてください」
「では最大限高く売りつけてきます」
そう言うとウキウキと事務所を出ていった。うちの共同体で得た商品を最優先で引き取る契約であるし大所帯になってしまった共同体を運営するには資金がいる。
「樹さん。実は冒険者組合から大規模の指名依頼の話があるそうです」
事務員の一人がそう言って書類を差し出す。
受け取った後ざっと目を通すと巡回業務に人手が欲しいとの事だった。ただし詳細は書面では記せないとの事である。
共同体の担当職員マクファイトさんに会いに行くか。健司が狙っているので同伴してもらおうかと思ったけど事務所の窓から外の訓練風景を見た限りでは見当たらないので一人で行こうかと思う。
ブックマーク、評価、感想、誤字報告などありがとうございます。




