417話 鹵獲品の秘密
四半刻ほど経過したころレルンがやってきた。ただしなぜかハーンが同伴している。
報告忘れがあったことを思い出し戻ってきたところレルンと出くわしたそうだ。
年齢も離れており、役割分担も異なる密偵のレルンと魔導機器技術者のハーンだと接点がないように思うのだがうちの共同体では密偵たちには魔導速騎での移動を推奨している。その関係で僕の見えないところでやり取りがあるらしい。
レルンにはウィンチェスター子爵領へと人をやって自動工場の痕跡などを探し出して欲しいという要望と共同体内に情報を売ってるものがいる者を洗い出して欲しいとお願いしておく。
共同体の内偵には了承したもののウィンチェスター子爵領への調査に関して難色を示す。そこまでの人材がいないとの事だ。
正確には腕利きはいるのだけど、種族的な精神的特徴もあり上位者が手綱を握っていないと能力を十全に発揮できないどころかトラブルメーカーになりかねないとの事であった。
「あ、メリッサの事か」
思わず声に出してしまった。レルンが頷くので間違いないようだ。この人物なら確かにと思ってしまった。
彼女、メリッサは幼人族と呼ばれる妖精である草原妖精の末裔であり好奇心旺盛であり知能は低くないのだが脊椎反射で行動する傾向にあり単独で動くと何をするか予想が出来ないのである。
レルンが密偵の人材確保の際に奴隷として流れてきた彼女を買い取ったのである。たしか経歴が東方で恐れられていた暗殺者組合で薬物投与などで調整済みの暗殺者だったという。
幼人族は人ごみに紛れると人族の子供と見分けが付かないが、この世界では見た目が小学校低学年レベルの子供が一人旅をすることはあり得ないので誰か親役が必要になる。
「親役が出来そうなのは…………」
「俺しかいないな」
レルンから即座に答えが返ってきた。この場合は親子という設定で動けるという意味でだ。
僕の年齢では娘として紹介するには年齢が近すぎる。そこでしばし考える。
そうだ。一人居るぞ。
この間連れてきた自衛軍の一人に偵察任務を請け負っていた人物がいた。うちの道場で鍛錬をしており戦闘能力も申し分ない。やや公用交易語に不安があるが日本皇国から来たと触れ込めば誤魔化せるだろう。ただし自由民としてだけど。
レルンには[高屋流剣術]の中伝を修めた成瀬三等陸曹に頼むように指示する。二人の相性が合わないようならその時は改めて考えようという事になった。
「それで、ハーンは何を報告忘れたって?」
「鹵獲した魔導騎士に搭乗していた騎士の事ですよ」
調書を取るのはノルンの部署のはずなのにどういうことだと思っていると。
「あいつら記憶がない」
レルンの方から答えが返ってきた。
「どういう事?」
「元々は農夫だったらしいのだけど、騎士に叙勲されて以降の記憶がポッカリ抜けている」
高位審議官のアルマに立ち会ってもらっての尋問でも嘘がなく凄腕の密偵という感じもない。和花に精神魔術で記憶の浅いところを覗いてもらったそうだが妖しいところがなかったという。
「そこで俺の報告っす」
ハーンがそう切り出して鹵獲した魔導騎士を構造解析した際の情報を話し出した。
「――そんな感じっすね」
そうして話し終えたのだが、捕虜とした農夫らは本来であれば魔導歩騎にすら拒絶されるくらい適性がないそうだ。
試し乗せたら拒絶反応で操縦槽内で吐いたそうだ。
分かったことは鹵獲した魔導騎士は生体部品として生きている者が搭乗する必要があるだけで資質などは関係ない事が分かった。
それどころか訓練すら要らない。騎体の制御は補助脳核ユニットが補助しており素人が乗っても一定の戦闘力が発揮できる仕様との事であった。
処分するか……。
ブックマーク、評価、感想、誤字報告などありがとうございます。
何故毎日投稿できないのか……。




