415話
応接で待つ中年の名は中原の大国ウィンダリア王国の貴族であるコニグ・デア・ウィンチェスター子爵であった。
所謂ケーニッヒ・スル・ウィンチェスター・ウィンダリア王太子殿下の別名義である。
ウィンチェスター子爵閣下名義での依頼なのでウィンダリア王国からの依頼ではなく個人としての依頼という事だ。
その人物が共同体の事務所の応接室で優雅に青茶を楽しんでいる。
僕が入室すると開口一番で
「良い茶葉だね。ベドリアム産かね?」
そう尋ねてきた。
「左様です。ベドリアム産のアグナ工房の最高級品でございます」
ややお道化てそう回答する。すると表情を崩しこう口にする。
「卿にそういう対応されると困惑する。いつも通りで頼むよ」
大国ウィンダリア王国では子爵などは地方の田舎貴族でしかなくあまり遜られても困るというのが彼の主張である。
「では閣下。本日の用件は?」
この閣下は冒険者組合の訓練所の視察後に側にあるうちの共同体の事務所に頻繁に顔を出しては世間話をして帰っていく。
「卿は相変わらず忙しないな。もうちょっと会話を楽しもうという余裕はないものか……」
「そんな余裕は下水に流しましたよ」
「随分人数が増えたようだな。装甲歩兵があると聞いたが使い物になるのかね?」
もう閣下に耳に入ったのか。どこかから覗かれているのか守秘契約していいない誰かが漏らしたか? いや、独身寮建設の外部業者あたりかな。
「そうですね。巻上式重弩も弾けるくらいには堅牢ですよ。荷も120グロー背負っても一日歩けますしね」
存在を知られている以上は変な嘘をついても仕方ないので正直に答える。自重が増える分、普通の人間が使いこなせない大型の武器も扱える。
「小隊を貸してくれないかね?」
「まだ訓練中ですよ」
「能力を検証したい。性能如何ではうちの所領で運用する」
うちの所領などと言っているが恐らくウィンチェスター子爵領で運用して国軍へと考えているのだろう。
「あれは拾い物ですよ」
「魔導機器組合で複製させる」
なるほど、どこかに秘匿している自動工場で複製させる気か。
以前にハーンに聞いたところ表に出して問題ある技術は使っていないと聞いているので逡巡した振りをした後に「承知しました」と回答する。
「ただ、日本皇国出身者ばかりなので公用交易語がまだ不慣れですよ」
「冒険者共同体なのだろう。なら手信号くらい使えるのだろ?」
「使えますね」
「なら問題ない。ついでにうちで公用交易語の教育もしてやる」
さて、貸し出すにしてもどこまでの装備を貸し出すかな?
「派遣するにしても魔導機器技師も必要ですし、技術班長と相談しても構いませんか?」
「……ふむ。よかろう。三日後に来るのでそれまでに良い返事を期待するよ」
そう告げると腰を上げ「見送りは不要だよ」と言って帰っていった。
さて、どうしようかな。
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気が付けば100万文字突破してたわ。




