412話 合流と状況報告
一限ほどして疾竜の集団が見えて来た。前方に居た四輪馬車などはあっさりと追い越したようで無関係のようだ。
さて、こちらの場所を知らせないとマズいなという事で瑞穂に命じて彩光弾を三射する。三つの赤い光が尾を引いて順次上空へと伸びていく。所謂信号弾である。
この世界は空気は澄んでいる事もあり彩光弾の観測距離は最大で12.5サーグ先からでも肉眼で観測できる。周囲には集落もあるので興味本位で探しに来るものもいるかもしれない。
そう考えているとハルカラたちペンタズ氏族の一行が目的を果たして帰還した。美優はハルカラの乗騎に乗せられていたようだ。慣れない騎乗逃走にかなり疲れ果てているようである。
まずは無事に戻ってきたハルカラらペンタズ氏族の一行が無事に戻ったことを労い白鯨級潜航艦に案内する。
目的は果たしたので偽装天幕などを撤去し亜空間へと潜航する。これで一息つける。
美優が珍しく強い口調で何かを訴えかけているのをハルカラが宥めている。耳に飛び込んできたいくつかの単語からどうやら誰かを救助したいようだ。ハルカラはと言えばかなりイラついているようにも見える。道中でも何度かに多様なやり取りがあったのであろう。
瑞穂がこっちを見ている。目を合わせると首を振る。いまの僕らの立ち位置はこの世界のルールでは結構グレーゾーンになる。
神の如き力で周囲を力づくで従えさせるほど力があればともかくだ。それに急速に拡大した共同体も一枚岩ではないので危険は可能な限り避けたい。
可哀想ではあるがリスクを冒してでも助ける価値を見出せないと今は動けない。
程なくして和花が現れると何やら宥めすかして奥へと連れていく。その際に一瞬だけ和花と僕と目が交差する。任せろと言われた気がした。
僕はハーンに鹵獲した魔導騎士の調査と騎士の尋問を頼み、念のために瑞穂を同伴させることにした。よほどの技量の持ち主でもなければ瑞穂が制圧できるだろう。
そしてイラついているハルカラに声をかけこれまでの話を聞かせてもらうことにした。ペンタズ氏族の皆には疾竜の世話と食事と休息を命じる。お目付け役の老戦士ガルドが監督してくれるので問題ないだろう。
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「なるほどね……」
ハルカラからの報告をで現在の東方情勢はだいたい分かった。中原で新聞で得られる情報よりひどい。
赤の帝国は宣告通りかつての領土を不当に統治する諸国を蹂躙し民衆は多くが兵隊の慰み者になったという。
かつてはあった戦場のルールもなくなり勝者が好き放題する状態である。略奪暴行を小遣い稼ぎと思って志願する者もいるそうだ。
問題はそんな戦争に便乗し無関係だったはずの東方西部域の諸国が治安維持の名目で戦争を始めたのである。
そうして東方全土が荒れ始めたところに黒い獣が至る所に出現し暴れ始める。赤の帝国は治安維持を名目に東方西部域にまで魔導騎士を派遣するようになる。
更に厄介なことにこの世界では存在はしていたが道楽程度に使われていた銃器を赤の帝国が部隊運用しているとの事であった。長物とハルカラは言っていたが美優が見た限りでは鋼輪式滑腔式歩兵銃らしいとの事だ。練度はそれほどではなかったようで負傷者が出たものの美優の治癒の奇跡で脱落者は出なかったという。
当初より疾竜の数が減っていたのは高値で購入を希望する傭兵が幾人かおりあまりにもしつこいので相性の良かった騎手にだけ売ったという。
売り払った疾竜は僕らが以前購入したものなので他人の所有物を勝手に売り払った事で謝罪されたが特に咎める事はしなかった。とにかく預かったペンタズ氏族一族の方が大事である。
そして美優が何を言っていたかという話になる。
戦争が激化しどの農村も危険が迫り逃げ出す者が出始めた。この世界では住み慣れた土地を離れるという事はかなり敷居が高い。就職先が見つからないで飢え死にか奴隷堕ちも多いからだ。他の土地に移住するには最低でも数年は生活できるだけの資金が必要である。
だが多くの者はそんな資金は持ち合わせていない。
略奪暴行を受けるよりは奴隷堕ちの方がマシだと判断で逃げ出したのであろう。
奴隷というと過酷な労働環境で人間扱いされずなどと思うが、この世界では奴隷は貴重な労働力で財産でもある。また主人は奴隷の人頭税を払う義務とパフォーマンスを維持するために衣食住を揃える義務と奴隷が自分を買い戻せるように最低限の賃金を支払う義務がある。
確かに法律上は人として扱われないが税金は払わなくてもよいし衣食住も贅沢言わなければそれなりのモノが出てくる。基本的には決められた仕事をしていれば咎められることもない。
創作物では定番である性奴隷的要求は応える義務はない。もっとも忖度して要求に応える者もそれなりに居るそうではあるが……。
過度なブラック労働もなく言われた事だけやっていれば働けなくなるまでは困らないので安易に奴隷でもいいかと思う者は一定数いる。もっとも働けなくなった後で追放されて野垂れ死ぬわけだが……。
なんらかの技術を持っていれば職能奴隷として一般人より贅沢できる場合もある。
ハルカラとしては安易に助けて逃走の足を遅らせるわけにはいかなかったので判断に間違いはない。また砂漠の民は弱者には厳しい。
特に咎める必要性は感じなかった。
他はと言えば流通が止まって戦場以外の地域でも沿岸沿いの都市以外は食糧難で犯罪率が上昇しているそうだ。
あらためて労いの言葉をかけ休憩するように伝えると僕は指揮所へと向かう。
遠話器を使用する為だ。
浮遊遠話送受信器を用いて共同体本部にある指示を行う。
さて、所定の位置へと移動しよう。
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そういえば最近なろうの表示が遅くて評価とかブクマ数とか見れないんだけどどうなっているんだろうか?




