410話 鹵獲②
「何かあった?」
そう問うものの何かあれば態々魔導歩騎の装備を換装させては来ないだろう。時々チートじみた勘とやらがすべてを見透かしているようで恐ろしく感じる時がある。
操縦槽の開閉扉が開き小首を傾げた瑞穂がこう言った。
「ハーンの代わり。どうせ好奇心に負けて樹兄さんを置いて行ったと思ったけど、当たり?」
確かに鹵獲は仕事ではなくハーンの趣味みたいなもんだ。彼の性格を理解していれば分かりそうではある。
「そうそう。困ったもんだよ。おかげで周囲の情報が分からなくなってね。戻ろうかと思ったんだ。助かったよ」
礼を言うと魔導歩騎は片膝をつき腕に乗るように示してくる。
右腕に乗ると操縦槽のあたりまで持ち上げられて板状器具端末を見せてくれる。
この騎体は早期警戒管制装備をつけたタイプで様々な探知機を装備しており周囲100サーグの状況をほぼリアルタイムで表示してくれる。
もっとも様々な探知機で重量は増加し戦闘機動は無理との事だけど。
余談であるがこの騎体が設計された時代は対空火器がチートじみて優秀で音速の数倍程度の速度でしか飛べない航空機や回転翼機は廃れていたという。
板状器具端末の表示を見るにハーンは目標に到達したようだ。倒れたと思しき三騎に動きがないところを見ると騎士は気絶しているのだろう。まさかショック死してないよね?
北西からくるやつはもうすぐここを通過する。言っている側から予想通りのモノが僕らの前を走り抜けていった。僕らの故郷たる日本帝国自衛軍で採用している65式高機動車であった。
その高機動車は程なくして急制動をかけ止まるとバックして戻ってきた。
「高屋!」
そう声をかけてきたのは助手席に乗る人物であり元の世界に戻ったはずの九重 宗司であった。精霊使いでもある彼であれば赤外線視力にて普通の者には見えない光景も見えた故に判別がついたのであろう。
僕も精霊魔法に適性ある筈なんだけど全然ダメなんだよねぇ……羨ましい。
▲△▲△▲△▲△▲△▲
互いの近況を語り合い状況を整理するとこうだ。
黒い獣が本陣の【次元門】に飛び込んだ後に門が閉じてしまって何時までたっても復旧しない事で混乱が生じ逃亡者が出始めた。
それでも高屋家の一派が数百人おり、それを中心にまとまった部隊が屍人と黒い獣に追われるように東へと逃亡を続けていたが食料が乏しくなり地理や言語に明るい九重らが買い出しに出たのだという。
お金はどうしたのかと言えば廃村から拝借したとの事だ。彼らも自分たちの持ち込んだ兵器などを迂闊に見せびらかせば危険だと判断で来る程度にはまだ冷静なようで安心した。
もっとも弾薬はほぼ残されておらず燃料なしで動けるといっても整備なしではどこまで使えるかわからない。
実際に共食い整備で部品を確保しており動けなくなった車体は爆破したという。
因みに虎の子の大型回転翼機二機は負傷者たちと一緒にここから60サーグほど離れた廃村に置いてきたそうだ。
九重らは食料などを購入後にこの高機動車で十字路都市テントスまで僕らに援助を求めるつもりであったという。
[高屋流剣術]の門下が多いのか……。腕は立つだろうし保護の対価でこちらでの生活を保障すれば取り込めるかな?
瑞穂の方を見ると察したのか彼女は何度か頷く。
決めた!
そう思い僕は提案をした。
「食料品や医療品は僕が提供するよ。代わりに僕に協力して欲しい」
ブックマーク、評価、感想、誤字報告などありがとうございます。




