408話 浮上と会敵
亜空間を数日潜航し目的地周辺に到着した。時刻は十の刻過ぎだ。月明かりのみ明かりの夜は人知れず浮上するには最適である。
ここからは浮遊式潜望鏡を用いて浮上地点を探さなければならない。梟型偵察騎を発艦させ最適な場所を探す。いくら夜とは言え目立つところに浮上出来ない。
回収地点として予定していた魔力の塔とかつて呼ばれていた廃墟の南にちょっとした大きさの森があり調べてみるとギリギリではあるが浮上に適した空間が存在した。
浮上手順から収容し潜航するまでの流れを打ち合わせを行い白鯨級潜航艦を亜空間から通常空間へと浮上させる。ただし浮上させるのは艦橋とその下の上甲板格納庫だけだ。
うちの船員らは地味に優秀なのか浮上後はさっさと偽装ネットを張り浮上部はうまい具合に周囲に溶け込んだ。
と、思う。
ハルカラらの行程に特に問題がなければあと一刻ほどで到着するはずである。もっとも時計で時間合わせしているわけではないので誤差半日くらいは考えなければならない。それ以上経過する場合はトラブルに見舞われていると判断しハルカラらは独自の判断で帰路を決定し帰還する予定になっている。
予定ではこの辺りはまだ戦場にはなっていない筈なのだが、神聖プロレタリア帝国でも赤の帝国でもない小国がドサクサに紛れて領土拡大に走っており東方に関してはどこで戦闘があっても不思議ではない。
周囲を梟型偵察騎に偵察させつつハーンと砲撃型多脚戦車を出撃させる。理由は隠蔽力と索敵能力の高さだ。
開閉扉を開けた状態で操縦はハーンが担当する。変わっているのは騎乗方法が前傾した馬乗りなのだ。あとは特徴的なのは余計な機器類がほぼなく周囲を映像盤で覆われている事だろうか。
「そいつの操縦は思考制御じゃないのか?」
この世界の機器類の多くは思考制御で動くのだがその反面というべきか脳核ユニットが騎体と搭乗者を同一と認識出来ないと動かすのも困難なのである。
それどころか騎士を無理やり変態させてしまう場合もある。
「間に挟む補助脳核の性能が向上しているので、上手く欺瞞が出来ていてそれなりに複雑な動きが出来るっすよ。だけど格闘戦を行うとなるとそれなりに才能が必要っすね。ちなみに俺には無理っすね」
ハーンはそう締めくくった。
隠密性の高さは駆動音がほとんどしない事と錬金術で作られた装甲に塗布してる塗装が周囲の風景を映し遠目からは視認しにくいようになっている。
確認してみたけど2.5サート離れるとほとんど視認できない。
前腕に折りたたんである格闘用の刃物で木々を切り倒し森を出る。空は雲が出始めており月を隠し始めている。
「樹さん。広域投影板に三騎」
広域投影板とは複数の探知機の収集データを統合し自騎を中心に半径3サーグを立体投影する装置である。ある意味機能が限定された[神の視点]とも言える。
「進路は?」
「魔力の塔に向かっているっすね。あっ、北東から集団」
「集団? 数は?」
「密集隊形なのか数は判別出来ないっすけど小隊以下。ただ移動速度は10.5ノードくらいっす」
ハルカラ率いる疾竜の集団にしては遅すぎる。確かここは都市国家ハースの領域のはずだから軍隊だろうか?
魔戦技で強化したフル装備の歩兵…………は流石にないな。マンガじゃあるまいし。
暫し迷った末にハーンに確認を取る。
「三騎の方は騎種は特定可能かい?」
「不明騎っす。ただ、速力から見てかなりの高級騎か太古の発掘騎のどちらかっすね」
答えはすぐに帰ってきた。
この東方で高級騎はまずありえない。維持費がないからだ。基本性能の高い太古の発掘騎を部隊で運用できるのは赤の帝国くらいだ。
どう考えても相手は赤の帝国の魔導騎士小隊だろう。
「よし、ご退場願おう」
「了解っす」
ハーンがそう答えると砲塔が旋回し畳んであった砲身が展開される。
「弾種と弾速と弾道はどうします?」
「曲射で。あとは任せる」
「了解っす」
そう答えると操作卓で指示をだしていく。
「あ、樹さん。魔導騎士ですが研究用に鹵獲してもいいっすか?」
「得られる技術とかあるの?」
「いや、こっちの機材の鹵獲対策に性能を落とした騎体を用意するための指標として欲しいっす」
「任せた」
専門分野に関しては口を出さないでハーンに任せてしまおう。
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